第29章 『再・分解』 4
「ママー!にっしょくまだかな?」
「そうねー。もうそろそろかしらね。」
カーテン越しに空を見上げているまだ小さい娘を見ていると、今ここにはいないマースとビーネの事をかんがえてしまう。
軍人なんて危ない仕事…。
東部の内乱が収まったからもう大きな戦に行く事は無いだろう。と言っていたマース。
だから、ビーネが軍に入る事も渋々許した。
もちろん反対した。
「エリシア。あんまり太陽を見つめちゃ目が悪くなるわよ。」
「はぁーい!」
ビーネはエリシアのお兄ちゃんで私の息子。
それは何ものにも代えられない大切な家族。
あの子は私の事をどう思っているのかしら。
『母さん』と優しく呼んでくれる。
あの子は大人過ぎるのよ。
「ママ?」
「なぁに?」
マースもマースよ。
突然、見ず知らずの子供を引きとって、俺の息子だ!なんて。
それも結婚をする前に。
あの時はこれから先どうなるのか不安だったけど。
今ではあの子が居て良かったと思える。
「お兄ちゃん。今日は帰ってくるかな?」
「どうかしらね。」
今にも破裂しそうな爆弾を抱えたあの子を、あの人が放っておくなんて絶対に無理。
苦労したわ。
泣きわめく訳でもなく、怒る訳でもなく。
小さな動揺でもすぐに体調を崩して、人と接することを怖がって、殻に閉じこもる。
ほんと、問題児だった。
そう、だったの。
昔の話。
「にっしょくをかんさつしなきゃ!」
少しづつ少しづつ、おしゃべりをして、楽しい事をして、愛して。
そうしたら、笑って、教えてくれて、答えてくれて。
エリシアを妊娠した時が一番大きく変わった。
「兄ちゃんがね、かんさつするのが一番っていってたの!」
「そうなの?」
「うん!」
初めて泣いたわ。
段々大きくなっていくお腹を見て、触って。
でも、どうして泣いたのかしら。
人一倍エリシアをかわいがって、勉強の合間にはずっとエリシアのお世話をしてくれていた。
おかげで、エリシアはお兄ちゃんっ子になった。
私やマースが嫉妬してしまうぐらいに。
「お兄ちゃん、帰ってくると良いわね。」
「うん!」
エリシアも私も、もちろんマースだって貴方の事好きよ。
愛してるわ。