第26章 『再・分解』
ありとあらゆるところから飛んでくる、影で出来た口のような物。
他にも逃げている人が何人かいるようだが、誰ひとり反撃している人はいない。
出て行ったは良いものの、結局彼らと一緒に逃げている自分。
カッコ悪。
「さて、だいぶん見晴らしが良くなりました。」
「……セリム様?」
「ちがう。あいつもホムンクルスだ。」
いやいや、目の前にいるのはどう見てもセリム様。けれど、彼の後ろにあるのは明らかに狂気をはらんだ物。
彼らの反応から見ても間違いはなさそう。
「グリードはあとどの位で死にますかね?」
リン……グリードの事をそう呼び捨てにするという事は、間違いなくホムンクルスの一味なのだろう。
傷だらけのエドとグリード。さらに、木の影に隠れていた味方も見つけたセリム。
相当ヤバそうな相手なのだけは理解した。
「おや。やっと登場ですか。ホーエンハイム!」
「ヒーローは遅れてやってくるものだよね。うん。」
のんびりと特に身構える様子もなく出てきたヴァンさん。
「ヒーローという事は私を倒す気でいるのですか?」
「いやぁ、無理無理。おまえと戦う気はないよ。おっかないもんなぁ。」
じりじりとする睨み合い。
するとセリムが広げていた自分の影をずるずると自分の方へ戻し始めた。
次の瞬間、物陰からアルフォンスが飛び出しセリムに近づいた。
しかし、セリムの影に押さえられ作戦は失敗。
「私の意識をホーエンハイムに引きつけて、その隙を突く…ですか。」
影は確実にアルフォンスを締めあげ、アルは動くことさえできないでいる。
「わざわざ人質になりに戻るとは、君の息子ももの好きな」
ぎっ!とセリムを睨みつけるヴァンさん。
父親の顔だ。
「俺の息子をバカにするな。」
そしてそれは一瞬の出来事だった。