第118章 幸せな時間明けの日常は夢オチを疑う。
―― 翌朝
眠れなかったのは葵咲だけではない。土方もだ。理由は葵咲とは少し異なるが、土方も一人悶々としていた模様。土方は目の下に隈を作り、ぼーっとしながら顔を洗う。手早く身支度を整えて部屋を出る。朝食も場所は同じ、昨日と同じ宴会会場。土方は会場へと足を向けながら考え事をしていた。
(土方:…どんな顔して葵咲(あいつ)に会やァ良いんだ?つーかこれ、どうなるんだ俺。いくらなんでも口外出来るはずもねぇし、公私混同するわけにゃいかねぇ。…いや、そもそも付き合うとか、するべきじゃねぇな。他の隊士達に示しがつかねぇ。そのあたり、きっちり話を付けて…)
土方もそういった恋愛事情にあまり慣れていない。過去、惚れた女はその身を案じて遠ざけた。故にどうしたら良いのか分からない。それに局中法度なる厳しい掟を取り付けたのは他でもない副長の土方。そんな土方が一人浮かれて社内恋愛を満喫するのは如何なものかと考えているのである。
ブツブツと独り言を零しながら歩く土方。そんな土方へ、背後から声を掛けるのは葵咲だった。
葵咲「おはよう、土方さん。」
呼び掛けられてビクッ!と肩を震わせる。まだ考えがまとまっていない。土方は少し焦りながらもゆっくりと振り返る。
土方「お、おう。」
土方の焦りには気付いていないのか、葵咲は変わらぬ様子で隣に並んで歩を進める。
葵咲「慰安旅行、あっという間だったね。なんか帰るのが惜しいなぁ。」
普段通りの変わらぬ態度に、ホッとする一方で妙なざわめきを感じる。葵咲へと目を向けながら土方はふと思う。
(土方:あれ?やけに普通じゃね?もしかして夢?まさかの夢オチ?)
あまりにも普通過ぎやしないか。昨日葵咲の部屋での彼女の態度は初々しさ満天の少女そのもの。てっきり今日も恥ずかし気に話し掛けられると思っていた。