第118章 幸せな時間明けの日常は夢オチを疑う。
茂々「今日の余は…いや、今日の私は征夷大将軍としてではなく、一人の男、茂々として旅行を楽しむ事が出来た。これもそなたのお陰だ。礼を言わせてくれ。有難う。」
葵咲「いえ、そんな!勿体ないお言葉です!」
まさかそんな面と向かって将軍様から直々に感謝の言葉を受けるなんて思ってもみなかった。葵咲は慌てて両手を振る。だが素直に嬉しい。今回、慰安旅行の幹事を引き受けて良かったと痛感する。
そして将軍は静かに続けた。
茂々「そなたは市村の家の出だそうだな。」
葵咲「!」
茂々「伯父上の代からずっと将軍家を支えてくれていたのだな。」
決して嫌味や悪意はない。将軍はただただ葵咲へ感謝の気持ちを送ったのだ。だが葵咲は浮かない顔をして俯いてしまう。
葵咲「…私は・・・・何もしていません。むしろ、恩、を…仇で返すような事を…。」
茂々「?」
絞り出すような声に、将軍は葵咲の方へと視線を落とす。葵咲は至極暗い表情を浮かべたまま、次の言葉を話すか躊躇い、少しの沈黙を落とす。だが意を決したように少しだけ顔を上げて言葉を紡ぐ。その表情は暗いままだ。
葵咲「市村家を殲滅させたのは…攘夷志士、鬼兵隊の高杉晋助です。」
茂々「!」
葵咲の言葉に大きく目を見開く将軍。だが将軍が口を開くよりも先に葵咲が静かに言葉を続ける。
葵咲「けれど…それを招いてしまったのは…他でもない・・・・自分です。…市村家には…引き取って頂いた恩があるのに…私は・・・・。」
茂々「・・・・・。」
葵咲「・・・・私に、真選組(ここ)にいる資格は…ありません。」
葵咲の言葉を受け止める将軍は視線を移し、中庭の池の水面を静かに見つめる。だがやがてゆっくりと口を開いて空を見上げた。
茂々「そなたの功績は聞いている。真選組を護ってくれた事、そよの身代わりとなり、囮となって敵を欺いてくれた事。その他にも数多の功績を残していると。」
葵咲「!」
茂々「そんなそなたの何処に資格が無いと言えよう。」
葵咲「ですが…!」