第15章 天下人信長
「貴様も呑むが良い」
「……これ……ワイン……?」
「知っているのか?」
「はい……よく呑んでましたよ」
(記憶がなくなるくらいにね)
綺麗な細工がしてあるグラスにワインが注がれると鼻を抜けるように香りが漂ってくる。
「信長様もワインはお好きですか?」
「悪くはない」
「ん……いい香り」
香りを楽しんでから一口含んで味わうと……
「美味しい」
「そうか」
「はい、とっても。この時代でワインが呑めるなんて幸せです」
「ならば好きなだけ呑むがいい」
さっきまでの緊張は何処に行ったの?っていうくらいに私はリラックスをしてワインを吞み干していく
(すきっ腹だという事も忘れて)
それからしばらく私と信長様はワインを吞みながら他愛もない話をしていた。
思えば信長様とこんなにも長い時間話をするのは初めてかもしれない。
いつも忙しそうにしているし、絶えず信長様の周りには人がいたし。
いつも難しい顔をしているところしか見てなかったけど、今はなんだか違うような気がする。
私の話に興味があるのか「それで?」「次は?」と催促をしてくるなんて、まるで小さな子どもみたい。
「ふふっ……」
「なにがおかしい?」
「なんか信長様って可愛いなって」
「ほう……」
「っ……!」
一瞬にして信長様の瞳の色が変わった事に気付いた私は背中に寒気を覚えた。