第14章 夕焼けの色
「もう年齢のことはいいって」
半ば呆れたように、夕が返す。何お前、そんな卑屈なこと言いにわざわざ来たのかよ、と嘆息する。
「それでも夕は、私を選んでくれるの?」
伏し目がちだったみなみの目がぱっちりと開かれ、顔を上げて夕を見据えた。
「私は、夕の、邪魔にならない?」
――ひと呼吸、置く。それから。
「もし、それでも夕が私を選んでくれるな―――」
「選ぶに決まってんだろ!てかもうずっと選んでんだろ!」
みなみの言葉を最後まで聞かず、夕の大きな声が被さる。いつの間にか大きく、大人のものになった手が、みなみの両肩を掴む。
「お前は!いい加減、分かれ……!」
肩を掴む夕の手に、ぐっと力が籠められる。
「選ぶも選ばないも、もう決まってんだよ。お前しかいない。お前しかいないんだ…!」
絞り出すような夕の声。
想いを伝えるのはこんなにも勇気がいって恐ろしいことなのに、彼はずっと、みなみにまっすぐな想いを伝え続けてくれていたのだ。
「夕……、ありがとう。今までちゃんと向き合わなくて、ごめんなさい。私も、ちゃんと本当の気持ちを、言うね。」
ぎゅ、と、夕が唇を引き結ぶ。みなみの肩を掴む手が、ちいさく震えている。
ああ、そうだ、怖いのだ。向き合うことは、誰にとっても、こんなに怖い、ことなのだ。
それでもなおまっすぐみなみを見つめる夕の視線をとらえる。
「わたし、私は……、私、夕がすき。夕の、恋人になりたいよ」
すき。
投げても投げても、一度も帰ってこなかった言葉。
思考の波についてゆけず、珍しく言葉も出ないでいる夕と目を合わせたまま、みなみは心の中を言葉にして、ひとつひとつ丁寧に伝えてゆく。
「夕が大事。すごく大切なの。私は夕の、夕の夢とか人生とかの、邪魔をしたくない。それに、いつか夕が私を負担に思う日が来て、傷つくのが怖かった。だから今まで夕のこと、ちゃんと考えないようにしてた。逃げてたの。
夕はいつもちゃんと私にまっすぐ向き合ってくれてたのに、私はずっと、逃げてた。ごめんなさい。でも」
ぽろ…とみなみの瞳から涙が落ちる。
「すき、なの」
目が、あう。
「みなみ」
幼い日から、いつだってそこにいてくれたみなみ。