第14章 夕焼けの色
大好きで、大切で、絶対に誰にも渡したくなかった、平凡でかわいい幼馴染。
夕にとっては幼いころから当たり前のように心に決めていたことなのに、だから早く大人になりたかったのに、大人になればなるほど彼女は彼から距離を取り、あなたのためだと勝手に逃げていくのだ。
そのみなみが、はじめて話した本当の気持ち。
「みなみ、あのな、おまえ、ほんとバカ!」
予想外の言葉だったのか、きょとん、とした視線が返ってくる。
「俺アホだから、みなみが何か難しく考えてるの、なんか全然わかんね!けど」
ほとんど同じ高さにある彼女の額に、結構な勢いで自分の額をぶつける。
「いっ!!!ちょ、痛いんですけど!」
普通こう、コツン☆とかでしょこれじゃ頭突きじゃん!と涙目で文句を言うみなみを無視して続ける。
「お前は、いい加減、分かれ!つーか観念しろ!俺は、お前を嫁にするってずっと言ってるだろーが!もう諦めて俺のこと好きでいろ、普通に」
「す、すごいカッコいいんだけどなんかちょっとかっこよすぎてむかつくわ、やっぱ」
いつもの調子が戻ってきたみなみの腕を掴み、今度はぐい、と引き寄せる。
「安心して好きでいろ。どこへも行かねえ!!」
そのまま腕をまわし、ぎゅっと抱きすくめる。
一瞬体をこわばらせたが、みなみの両手もそっと夕の背中へまわる。
やわらかな彼女の身体のぬくもりが、じんわりと伝わってくる。
込み上げるような幸福感の後、不意にここが学校の前であることを思い出し、猛烈な照れ臭さが夕を襲い、ぱっと身体を引き離す。
「さ!帰るか!」
「うん、かえろ。」
数えきれないほど何度も繋いだ手と手をしっかりと結んで、歩きだす。
夕焼けの色が、ふたりの赤くなった顔を隠してくれているようだった。