第12章 さいごの。
試合は2-0で烏野が勝った。整列の前、額の汗を拭いながら、ふい、と夕が振り返り、ギャラリーの方を見る。
すぐに夕はみなみの姿を見つけ、いつものあの笑顔で、にかっと笑って見せる。みなみもつられて微笑んで、それから小さく手を振る。
一年生の影山がセッターとして試合に出ていたため、ベンチに入っていた菅原は、整列のためコートに向かいながら夕のその姿を見ていた。彼の視線を追って行って、ああ、あの人が、と思った。
他のギャラリーの人たちに紛れて、みなみも体育館を出る。
夕は、ユニフォームを着ると五割り増しぐらいでカッコよくなるよなぁ…ずるい……とぼんやり考えながら校門の方へ向かっていると、
「あのっ…!」
後ろから、声をかけられた。私?と思い振り向くと、烏野のユニフォームを着た男の子が立っている。ええと、2番…誰だっけ、知ってる子かな……主将が1番だろうから、えっと、と考えを巡らせるみなみに、彼が言う。
「あの、みなみさん、ですよね」
心当たりのない高校生から自分の名前が出てきたことに戸惑う。
「え、はい……そう、ですけど」
「あ、あの、俺、烏野の、えっと西谷の、」
どうやらあまり何も考えずに声をかけてきたのか、彼はあたふたと言葉を探している。
「あ!」
ぴんと来て、みなみが言う。
「もしかして、『スガ』さん?」
「あ、ハイ!あれ、なんで俺のこと」
「夕から、……あ、西谷君から皆さんのこといつも聞いてるから。番号若いし、三年生かなって」
あと、見た感じ、あさひさん、ではないかなって、と人懐っこく笑うみなみの顔を見て、菅原の眉が少し下がる。