第12章 さいごの。
その週の土曜日、みなみは夕に言われた通り烏野高校へ向かった。公式戦や大きめの大会などはこれまでも必ず観に行っていたが、さすがに練習試合を見に来るのは初めてだ。
ほとんど観に来てる人いないとか、いても高校生ばかりで浮くんじゃないかと思いながらおそるおそる体育館へ足を踏み入れると、思ったよりギャラリーがいて、年齢層も様々だった。よく見ればみなみもたまに行くスーパーのお兄さんまで来ていて、配達途中なのか、エプロンを着けたまま腕組みして立っている。
ギャラリーのために用意されたらしいいくつかのパイプ椅子は全て埋まっていたので、なんとなく椅子の後ろ辺りのすみっこに、そっと移動した。
幾分気持ちが落ち着いてきてコートの方へ視線をやると、相手校ももう到着しており、それぞれがアップをとっているところのようだった。
オレンジ色のユニフォームを着た、ひときわ小さい夕が、ぴょんぴょんと元気に跳ねまわっているのを、時間いっぱいまでみなみはぼんやりと眺めていた。
試合が進む。
いつも通り、夕は何度もコートから出たり入ったりを繰り返し、姿勢を低くしてボールに食らいついている。
その姿を眺めながら、やっぱり、夕がボールを追う姿が大好きだ……とみなみは思う。
小さい頃、二人でボールを投げっこして遊んだ。ちょっとぶつけては怪獣のような声で泣いていた夕が、こんなに強くなって、大きな人たちに一歩も引けを取らずに戦っている。
夕がバレーをしている姿は小学生の頃から何度も見てきたのに、何だか胸が詰まってたまらなくなる。
夕はいつだって全力で、そして決してぶれない。諦めない。
中学の頃、先輩に、チビだからバレーは無理だとバカにされても、歯を食いしばって人一倍練習して、ぶつけても、転げても、何度でも何度でも立ち上がり、努力して、努力して、努力して、ここまで上ってきた。
その同じひたむきさで自分を追いかけてくれる夕が分からない。私なんかの、何がいいの、と思ってしまう。
けれど、本当はもう気付いていた。理屈なんかでは割り切れないのだということを。
なぜなら、みなみ自身が、理屈で割り切れないほど、夕を好きだったから。