第12章 さいごの。
去年の秋、夕の誕生日に、あなたの恋人にはなれないと、あれだけはっきり夕に伝えた。彼女にとっても引きちぎられるほど痛い思いをして出した結論だったのだし、これから先夕がどんなに好きだと言ってくれても、自分の選んだ結論を、貫こうと思っていた。
それが、夕のためなのだと思っていた。
けれど、本当はもうわからなくなってきていた。決別を伝えても、相変わらず彼はそこにいて、ひたむきにみなみを追いかけてくる。
「別に、返事はしなくていい。」
夕が、驚くほど穏やかな口調で言う。
「さっき、これで最後にするって言ったけど、それは、お前にこうやって好きだって言うのを、だから。みなみの答えがどうであっても、俺は多分、お前を一生好きだから。」
「夕………」
「だから、もし気が向いて、返事する気になったらいつでも言って来いよ。何年とか先でも、別にいいぜ」
たまらなくなる。あなたは、どうして、そこまで。
「どんだけ、私を甘やかすの……」
抱えた膝に顔を伏せる。ここまで来てまだ、どうしていいかが分からない。夕より6年も長く生きているのに、彼の方が、今となってはずっと大人だ。
しばらくの沈黙のあと、何事もなかったかのように夕が口を開く。
「みなみ、おまえ今度の土曜、休みか?」
「え、うん、土日はちゃんと休みだよ」
「ウチで練習試合あるんだけど、観に来ねー?」
公式戦より体育館狭いから、、見やすいぜ、と夕は笑う。
「あれだな!試合ですっげーカッコイイ俺の姿見て、もっかいよーっく考え直せばいいんじゃね?」
冗談めかして夕は話すが、ちょっと本心なのかもしれない。
「うん………じゃ、いこっかな」
「おう!10時からだからな!寝坊すんなよ!」
「しないよ、夕じゃあるまいし。」