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夕焼けの色、歓びの種。【西谷夕】

第11章 大人に、なる。


 一方の夕は、考え込む様な目で、じっ…と菅原の顔を凝視している。
 「な、なに?」
 「スガさんって、モテそうですよね」
 「は!?」
 自分の考えていたこととあまりに開きのある夕の言葉に、菅原の口から間の抜けた声が出る。
 「今、彼女いるんすか?告ったこととかありますか!?あ、スガさんだったらやっぱり告られることの方が多いすか!」
 「ちょっと待って西谷、おまえから出た新ジャンルの話題に俺ついてけてない!」
 およそ夕の口から出たとは思えない類の質問を矢継ぎ早にされ、菅原はたじろぐ。
 「スガさんは…」
 まだあるの!?と混乱から抜け出せていない菅原が、はっと口をつぐむ。夕の目が、何とも言えず苦しげに眇められ、自らの足元へ視線を落としていたからだ。
 「好きな女、諦めたこと、ありますか」
 ぽつりと、たぶんそれが本当に聞きたかったことなのだろう言葉を、夕は口にした。
 「………西谷、ちょっと話そっか。誰か来たら面倒だし、場所変えよ」

 「俺、今まで、バレーでもなんでも、欲しいものがあればがむしゃらに努力して手に入れてきました。できないことがあるのは嫌だったし、諦めずに努力さえしていればいつかは絶対手に入るもんだと思ってたっス」
 夕らしい、前向きな理屈だ。そして彼は、これまでの人生で大概のことをその通りに成しえてきたのだろう。常人には到底できないであろう範囲の『努力』でもって。
 「みなみのことも、同じだと思ってた。何年も何年も、何回だって好きだって伝えてきたし、これからもあきらめなければ絶対そのうち手に入るんだと思ってました」
 でも…と言って夕は言葉を切る。次の言葉を探して逡巡しているようだ。みなみという女性を菅原は知らないが、黙って続きを待つことにする。
 「なんていうか、恋愛…?とかって、みなみの…、あ、相手の気持ちとか、そういうのが関わって来るから、ひょっとして俺が一人でいくら努力しても、どうにもならねーのかもしれねえって思い始めてて」
 まとまらない思考をそのまま言葉にして並べているような感じだったが、菅原はなんとなく推し量りながら続きを促す。
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