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夕焼けの色、歓びの種。【西谷夕】

第11章 大人に、なる。


 インターハイも結局3回戦敗退で終わってしまい、学校は夏休みに入った。
 バレー部は春高予選に向け、一丸となって練習を積んでいる真っ最中だ。このところ夕は、新たな武器のひとつとすべく、ジャンプトスの練習に取り組んでいる。
 水分補給のため一旦コートから出た夕は、つい先ほどまで自分のトスと合わせる練習に付き合ってくれていた東峰の姿を目で追う。
 そうして、ぼんやりと、数カ月前のことを思い出す。
 みなみの言葉通り、東峰は戻ってきた。
 あの日、みなみは夕を抱きしめてくれた。他の誰に何を言われるよりも、みなみのあたたかい胸が、彼の、痛いほどに傷つき悲鳴を上げていた心を救ってくれた。
 けれど、あれは、そう、姉のような、母のような……そういう、抱擁だったのだろうか。

 最近になってよく考えることがある。
 ――自分はもう、本当にみなみを諦めなければならないのだろうか。
 あの秋の日、これが私の答えだと最後に突き付けられた日から、もう半年以上が経つ。
 もたげ始めた思考を、大きく首を振って追いやる。駄目だ、今は、集中だ。

 「西谷、お疲れー」
 顏でも洗って頭を切り替えようと一旦体育館から出て水道の方へ向かうと、後ろから同じくやってきた菅原に声をかけられる。
 「あ、スガさん!うス!」
 「さっき見てたけど、お前オーバーだいぶ様になってきたな。変な音する回数も減ってるし」
 連れ立って歩きながら菅原が言う。
 「あざス!スガさんに教えてもらったおかげっすよ!」
 「西谷が頑張ったからだよ。お前ってホント、天才のくせに努力怠らないのな、偉いわ」
 温厚な笑顔を見せながら褒める菅原は、夕が天才の一言で片づけられる人種ではないことをよく知っていた。夕のずば抜けた能力の大半は、彼の血の滲むような努力で形成されている。
 そうして、結果だけを見て、人はそれを、天才だと形容するのだ。
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