第11章 大人に、なる。
「えっと、だから、んーーーー、あいつ、もう22なんスよ。俺がいつまでもしつこくしてたら、先へ進めないんじゃねーかって…。
俺、あいつに幸せになってほしいんす。でも、他の男じゃなく絶対俺が幸せにしたいんだけど、でも、あー、えっと、何だろ、とにかく迷惑かけてんじゃないかって、ここ16年で初めて思ったんす」
16年って、生まれてからずっとだな、と菅原は思う。幼馴染か従姉とかだろうか、と推察しながら夕の顔を見る。
「もしかしたら、もう、諦めてあいつのこと、解放してやった方が良くねえか、って」
だけど、おれ、と夕が言葉を切る。その目が、見たこともないくらい苦し気に揺れて、菅原の方を振り仰いだ。
「諦め方が、分かんないんです」
その真剣な目を見て、いい加減な返事は到底できないと思った。自分に厳しく、ひたすら強く、まっすぐで明るくて少し馬鹿で、いつもチームのムードメーカーとして大きな口を開けて笑う、こいつが。
「………俺、そのみなみって人知らないけどさ、迷惑かどうかを決めるのは、向こうだろ」
本当に迷惑だったら、そんな何回も告らせてもらえないよ、その前に逃げられるって、と菅原が苦笑する。
「確かに、好きだからこそ手を放す、みたいなのはあると思うけどさ、俺らまだ高校生だし、そんな理性的には行かないよなー、そりゃ」
夕の目が、菅原の言葉を追って宙を見る。
「……手を放さなきゃなんないほどの関係なのか、もっかいよく考えてみたらいいんじゃないかな。西谷さっき16年て言ったろ。そんな長い間かけて作ったものでも、手放すの、たぶん一瞬だよ。もったいなくない?」
「勿体ないって言うか、想像がつかねー、っす」
思いを巡らすように空を泳いでいた視線が、またそっと地面に落ちる。
「………スガさん、俺、手を、開いたままにしときたいです」
「ん?」
「そうすれば、俺が手放さなくても、あいつ、自由にどこへでも行けますよね、きっと」
「好きな人を諦める方法、か……」
夕の言葉に答えないまま、ぽつ、と菅原がつぶやく。
「そんなもん分かったら、一冊本でも書いて、それで一生食ってけそう。」
自らの目線よりだいぶ低い位置にある夕の頭にぽん、と手を置く。
「残念ながら、ないんだよな、そんなモン」