第7章 休日の嫉妬
「ちょっと夕!放してってば!痛いんだって!」
みなみの声に、夕が腕を放す。掴んでいた部分が赤く痕になっているが、今の夕にはそれに気付く余裕はない。
気が付けばフロアの隅まで歩いてきてしまっている。
「夕、なんなの?どうしたの?話なら家に帰ってからいくらでも…」
「出来ねぇだろ!」
怒りを隠そうともしない夕の声が、みなみの言葉を飲み込む。
「ひとのこと、さんざん避けやがって…そんな状態でできる話じゃねーだろ!」
「ちょっと夕、声大きいよ。外なんだから、ちょっと抑えて」
「ふっざけんな!俺のことは避けるくせに、あいつとはデートすんのかよ!彼氏ができたならそう言えばいいだろ!」
みなみの言葉が耳に入っているのかいないのか、夕の声は一向に小さくならない。絞り出すように悲痛な言葉を、みなみの顔も見ずに矢継ぎ早にぶつける。
「俺の気持ちはそんなに迷惑かよ!お前が好きなことがそんなに悪いのかよ!ふざけんな!なんでだよ、なんで俺じゃダメなんだよ!!」
夕の口から、こんなに女々しい言葉が出るのは、恐らく初めてだ。
いつも、自信たっぷりで、明るくて、前向きで、何物にも怖じ気づいたりせず立ち向かう、強い、強い彼が、こんなにも弱々しく見える。
「夕………」
みなみの手が夕の方へ伸びかけて、思いとどまったようにそっと下ろされた。
「ごめんね、夕。そんな顔、させたいわけじゃないの……」
困り果てたように眉を寄せ、夕を見るみなみのまつ毛が震えてまたたく。
その表情を見て、夕に少しだけ落ち着きが戻る。
「みなみ、……悪い…」
かぶりを振り、みなみは下を向いた。
「迷惑なんかじゃないよ。だけど、やっぱり私は年上すぎるよ。私なんて追っかけて、時間を無駄にしたらだめだよ……」
「俺がもし、お前より年上だったら…同じ年だったら……せめてひとつかふたつしか離れてなかったら、お前は俺を好きになってくれんのかよ」
夕の質問に、みなみは答えない。ただ下を向いたまま、ひどくつらそうな顔をして、消え入りそうな声でこう言った。
「ごめんなさい、夕……私は、どうしていいか、わからない……」