• テキストサイズ

夕焼けの色、歓びの種。【西谷夕】

第7章 休日の嫉妬


 夏休みも終わり9月も後半を迎えた、わずかに残る残暑の中、夕はチームメイトの龍と地元から数駅離れた、比較的大きな駅のショッピングモールに来ていた。
 珍しく日曜日に部活が休みだったので、せっかくだからどっかいくか、と遠出してきたのである。
 「あ、ノヤっさん、俺テーピング切れかけてんだったわ。買ってっていい?」
 モールに入っているテナントの、スポーツ用品店の前で龍が立ち止まる。
 「おう、俺もシューズ見よ」
 買えねーけどな、と笑いながら二人して店舗内へ入っていく。

 日曜日なだけあって、店内はそこそこ込み合っている。
 「大概奥の方じゃねーの、テープとか小っせえのは……」
 言葉の途中で、売り場を探している夕の目が、ふいに止まった。
 「ノヤっさん?どーしたァ?」
 夕の視線の先にいたのは、みなみ、と、以前みなみを家まで送ってきた男だった。
 みなみが何かの商品を手に取り男に見せて、二人で何やら顔を寄せ合って話し、笑っている。
 アイツ……………俺のことは、もうずっと避けてて、会いにも来ないくせに、そいつとはデートすんのかよ。
 生まれて初めて隣にみなみのいない春を、夏を、砂を噛むような気持ちで過ごした夕にとってその光景は、数カ月の忍耐をぶちんと断ち切るのに十分な衝撃だった。
 「みなみ!!!!!!」
 元々が大きな声の夕が腹の底から叫んだものだから、店内中の視線が彼に集中した。
 驚いて振り返ったみなみが声を発するより早く、夕の手がみなみの腕を掴み、ものすごい力で引っ張って店を出る。
 「夕!?ちょっと、何よいきなり!私友達と」
 「うるせぇ!ちょっと来い!」

 あとに残された龍と、それからみなみの連れ…いつぞやも夕にみなみをかっさらわれたことのある中原は、呆然と二人の背中を見送った。
/ 63ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp