第5章 受験
受験生の冬は短い。
あっという間に年が明け、凍える東北の二月が飛ぶように過ぎ、入試がすぐそこまで迫ってきた。
入試を明日に控えた夜、みなみは西谷家を遠慮がちに訪れた。
「夕―!みなみちゃん、来てくれてるよー!」
「あ、いいの、おばさん。明日試験だから集中してるかもしれないし。」
しかしみなみの台詞が終わるより早く、バタバタとやかましい音を立てて、夕が階段からひょっこり顔を出した。
「夕、ごめんね、勉強してたんじゃないの?」
「ん、してねえ」
「あ、そう……」
余裕だね、と苦笑しながらみなみは手に持っていた袋から、ガサガサと何か取り出した。
「はい、これ。もう自分でも持ってるかもしれないけど、私からも願掛けしといた」
合格祈願と書かれた小さなお守りが夕の手のひらに乗せられる。
「おー、サンキュ!……あれ、この神社って」
「あは、覚えてた?私の大学受験の時、夕が行ってきてくれたところと同じだよ。あれのおかげで私合格できたから、夕にも同じご利益あるかなぁって思って」
にこ、と微笑むみなみを見る夕の眉がわずかに下がる。
「………そか、ありがとな、みなみ」
「明日、頑張ってね。」
「おう、任しとけ!」
「合格祝い、何がいいか考えといてね」
冗談っぽくみなみが言うと、夕はぐっと一歩踏み出して即答する。
「何でもいいのか!?じゃ、合格したらちゅーしてくれよ、みなみ!」
「ばっ……」
ばっかじゃないの!?とみなみは真っ赤になる。夕のこういう言動には慣れているつもりだったけれど、油断していた。
「アンタ、よく親の前でそういうこと言えるよね…わが子ながらほんとひくわ……」
「いや、ここは気ぃ利かせて出てかないかーちゃんがどうかしてるだろ」
親子でどうでもいい言い争いをしている姿をやや引き気味に眺めていたみなみだが、まあ、これぐらいリラックスしていれば安心だろう、と前向きにとらえることにし、早々に暇乞いをしたのだった。