第4章 こどもの6年
「ざっけんな!みなみは俺のねーちゃんじゃねえ!嫁だ!!」
きょとんとする男と、心底うんざりした表情のみなみ。
「あんたねえ、またそういうこと……夕!もうおうち入んなよ!おばさん待ってるよ」
「帰んねえ!オイ、こいつ誰だよ!付き合ってんのか!?」
「こいつとか言わないの!サークルの同期の中原くんだよ。たまたま同じ方向だったから送ってくれただけで、付き合ってないから。あと私あんたの嫁じゃないから。」
そこまで一気に言い切ると、男の方を振り仰ぎ、
「ごめんね、中原くん、送ってくれてありがと。私この子家連れて帰るから、じゃあね」
と手を振ると、まだ何か喚いている夕の背中を押し、『西谷』と表札の出ている方の家へ入っていった。取り残された男は、しばし呆然と二人が消えたそのドアを見ていた。
「あのね夕!あんたほんとにいい加減にしてよ!私の友達にいちいち絡まないで!」
夕の母親に夕食を食べていくよう勧められ、そのままお言葉に甘えた形となったみなみは、西谷家のテーブルを囲みながら、随分とご立腹だ。
「そうよ、夕。みなみちゃんだってお年頃なんだから、彼氏の一人や二人いておかしくないでしょ。つまんない邪魔してんじゃないよ」
女二人に寄ってたかって吠えられて、夕はやや形勢不利な様子だ。
「なんだよ、お前に悪い虫がつかないよーにしてるだけだろ」
「まあどう考えてもアンタが一番悪い虫だけどね」
「か、かーちゃん……」
「それはそうと、部活はどうなの、夕」
みなみが話題を変える。
「おー、楽しいよ!まだ全然ボール触れねーけどなー」
でも、先輩たちが練習してるの見てるだけでもスゲー面白いんだ!と目をキラキラさせて話す夕を、みなみは目を細めて眺める。
それは、とても、愛おしいものを見る目だったのだけれど、みなみ本人を含めこの場にいる誰も、それに気付いてはいなかった。