第4章 こどもの6年
「みなみちゃん、ごめんね。彼氏連れてくるたびにあの子、あんなで」
お皿洗いをしながら、夕の母親が申し訳なさそうに言う。
夕は、食事のあとソファに転がったと思えば、あっという間にすうすうと小さな寝息を立てて眠り込んでしまった。
「全然。今日もたまたま送ってもらっただけで、彼氏とかじゃないし」
テーブルを拭いていた手を止め、みなみは答えた。
「そーう?ほんとに迷惑だったらもっとビシッと拒否してくれていいからね」
「ううん、迷惑じゃないよ。彼氏欲しいとかも、今は全然思わないし。」
夕の足元にくしゃくしゃと丸まっているブランケットを広げ、むき出しになっていたその脚にそっとかけてやる。
そうしてから、口を開けたまま眠っている夕の顔を覗き込んで、ふ、と微笑む。
「私……、たぶん、世界でおばさんとおじさんの次に、夕のこと好きだから」
その姿を微笑ましげに眺め、母の手も少し止まっている。
「おばさんは、ほんとにみなみちゃんが夕のお嫁さんに来てくれたら嬉しいんだけど」
「そんなの、そのうち夕が嫌がるよ、きっと」
みなみが笑いながら戻ってきて、シンクの前に並んで立ち、ふきんを絞る。
「これから年の近い女の子ともどんどん知り合うだろうし、夕が大人になる頃には私、お肌の曲がり角どころの話じゃないし。」
「六歳くらい、大人になっちゃえばそう変わらないんだけどねぇ」
夕の母は独り言のようにそう言ったが、結局まだ学生でしかないみなみには、どうしてもその実感はわかなかった。子供の頃の六年は、大きい。