第4章 こどもの6年
伸びる影も長い薄暮の中、夕は家路を急いでいた。
入学後一週間ほどは、小学生の頃とさして変わらない生活時間帯だったが、部活動が始まると、途端に帰宅時間は夕方遅くになった。
念願のバレー部に入ったものの、一年生は当然のごとくまだコートに入らせてもらえない。ひたすら筋トレ、走り込み、ボール拾いの毎日だ。
けれど夕は全く苦痛ではなかった。誰よりうまく、強くなって、一刻も早くレギュラーの座をもぎ取ってやるという強い思いがあったからだ。
「にしても、腹減ったぁ~~~~~」
思わず情けない声を出しながら、自宅の見える最後の曲がり角を曲がったところで、夕の目に不愉快な光景が飛び込んできた。
みなみと、彼女と向かい合っている男の姿だ。
「あいつ!!また!!!」
早速男連れて帰って来やがって、と頭に血が上る。
「みなみーーーーーーーっ!!!」
部活動で見せるスピードより数段早い動きで、みなみと男の間を裂くようにザッと割り込む。
「わっ!何!?ゆ、夕!?」
「うちのみなみに何かご用ですかぁ!!!」
驚いた顔で固まっている男に、噛みつくように言う。
「ちょっと夕、やめてよ、失礼でしょ」
ぐいっ、とみなみに押し出され、三人向かい合う形となる。
「みなみ、てめー!言ってるそばから早速ホイホイ男連れ込みやがって!」
「ちょっと激しく誤解生む発言ホントやめてくれないかな……」
ガルル…と噛みつかんばかりの勢いの夕の腕を引っ掴んで止めておきながら、みなみは男に謝る。
「ごめんね、この子、お隣の夕くん。幼馴染なんだけど、なんていうか、な…なついて、くれてて」
ちょっと違うような気もするが、他にうまく説明できる言葉もないようで、みなみはそこで説明を止める。
「あ、そうなんだ。中学生かな?お姉ちゃんのこと、守ってるんだ?」
屈んで夕の視線に合わせながら話しかけるその口ぶりは、悪気はなさそうではあるが、完全に子ども扱いだったため、夕の神経を盛大に逆撫でした。