第3章 制服デート
鼻息荒く言い切ると、ぷいとそっぽを向き、再び鉄棒と格闘を始める。
あまりの勢いにしばし言葉を失っていたみなみが、ようやく我に返る。
「え、えらそうに何言ってんの…!だいあいあんたのせいで高校時代も一切彼氏できなかったんだからね!夕のばか!ほんとばか!」
「知らねーよ!単にお前がモテないからじゃねーのかよ」
「なんですってええええ!ちょっと降りてきなさいよ!この!」
目を吊り上げたみなみは、相変わらずぐるぐる回っては一向に鉄棒から手を離さない夕に掴みかかる。結果的にバランスを崩し、二人はもつれ合って地面に倒れ込んだ。
「…っぶねーだろが!」
みなみを受け止める形で下敷きになった夕がガバッと起き上がって吠える。
「ご、ごめ」
口では謝りながらも、みなみの目はおかしそうに笑っている。
さっきまで目を吊り上げてきーきー怒っていたくせに…と思いながらも、これ以上文句を言う気になれない。
「こんなうっすい体して、まだまだ子供のくせに生意気言わないの!」
夕を引っ張り起こし、制服に就いた砂を払い落としてやりながら、少しほっとしたような空気を含んだみなみの声。
「ほら、帰ろ」
気が付けば日は沈みきり、ぽつぽつと星明りが空に散らばり始めている。
帰り道、いつものようにみなみの手に触れようとしたら、だめ、と拒否された。
なんでだよ、とむくれる夕に、みなみはつんと向こうを向いたまま答える。
「もう子供じゃないんだから、一人で歩けるでしょ」
「みなみ、言ってることメチャクチャ。さっきは子供のくせにってバカにしてたろ」
みなみの頬が少し赤い。
夕日はもう差していないのに。
それに気付いて夕は、やっと黙り込んだ。
家に着くまではほんの数分だったけれど、生まれて初めて二人は会話もなく、黙りこくったまま歩みを進めたのだった。