第3章 制服デート
昼間に開け放したままだった窓から、「なんでもう早速制服汚してんのアンタは!」という声が聞こえてきた。
自室に戻ったみなみは、セーラー服をハンガーにかけているところだ。
ごめんなさいおばさん。珍しくそれは夕は悪くないの、私なの、と心の中で懺悔しつつ、聞かなかったことにして窓を閉める。
机に向かい、先程夕が入ってきたため中断された、大学へ提出する書類を仕上げようとしたが、ふとみなみの思考は夕の言葉を思い出す。
「彼女なんて別にいらねー、か」
いるでしょ普通…意味わかんないな、と呟きながらみなみは机に突っ伏す。
彼女は特にモテるタイプではなかったが、それでも高校時代の三年間、それなりにいい雰囲気になった人もいた。
が、彼らがみなみを家まで送るようになると、必ず夕が出てきて全力で邪魔をした。
おかげで、朝霧にちょっかいかけると小学生に噛みつかれるらしいぞ、と噂が立ち、卒業する頃にはみなみに言い寄る男はいなくなっていた。
「はぁーーーあーもう…」
長い溜息を付く。
「やっぱり、どうしたって子供だよ…」
子ども扱いするなと言われても、みなみにとって夕はやはり子供だ。
嫁にもらうからと言われても、小さい頃に舌足らずな声で「みなみとけっこんする!」と言ってくれていたころと何ら変わらない気がしてしまう。
大人になってゆけば消えていく「ママとけっこんする!」に近い感情なのかと思っていたが、中学入学を迎えても、夕の中でその意志は健在のようだ。
「なんで私にこだわるんだろ。あの子、もてそうなのに」
あまりにも昔なのでよく覚えていないが、小・中学生の頃はああいったやんちゃタイプがモテていたような気がする。
「ま、そのうちケロッと彼女でも作って来るでしょ」
誰に言うでもなく呟いてから、理由はよくわからないけれど、胸の奥がちくりと傷む。
書類を埋める作業を再開しながら、矛盾した気持ちが、みなみの中にほんのりと、無自覚なまま息づいていた。