第1章 春はあけぼの
「おー、どうしたー?」
ヘアピンを留めながら翔くんは返事する。
「やっぱり……その……」
「ん?」
振り返ったその視線に、言いかけた言葉を飲み込む。
そんな様子を見た翔くんは苦笑いして、上半身を起こした私のもとへやってきてベッドの縁に腰掛けた。
「言いたいことがあるんだろ?」
「いえ、いいんですっ」
「だめだ、言いな。言わなきゃ怒るぞ?」
絶対怒りそうにない言い方。
なのに、素直に口を滑らせてしまう私。
“キスして”
そう言いかけたら、既に唇は塞がれていた。
柔らかくて甘いキスに指先まで熱くなる。