第1章 春はあけぼの
“ゼロ”と同時に冷たい空気が頬に触れる。
布団から顔を出した私の前には、翔くんの満面の笑み。
「おはよ」
すっかり身支度を整えて、もう家を出る体制の翔くんは、私の上に馬乗りになったまま笑った。
「あれ?何か期待してたか?」
「ち、違います!」
思わず顔を赤らめた私。
きっと考えてたことはバレてしまっている。
私がすっかり目が覚めたのを確認して、翔くんはノシノシとベッドから降りていった。
クローゼットの前の鏡を見ながら髪を整える後ろ姿。
「もうお仕事の時間?」
「今日は雑誌の取材が5本と、歌番組の収録が2本」
「忙しいんだね……良いことだけど」
「そーだなー。また帰る頃には電話する。」
近頃はお互い仕事が忙しくてすれ違いのことが多い。
人気者になってくれるのは嬉しいし、作曲家としても張り合いがあるけれど、寂しいのも本音。
「ねぇ……翔くん?」