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その実が赤く染められたなら

第3章 気づいたら彼女の全てが好きだった





 桑治さんの手に引かれ着いた部屋は夜景の見える一度は皆が憧れるような部屋だった。君の部屋もあるんだよと、連れられて行ったそこはいかにも女の子が好きそうな部屋で、ああ、でも、私の趣味ではないなァと思った。


「気に入ってくれたかい?」

「……ふつう」


 我ながら可愛くない態度。だけど桑治さんは気にした風もなく張り付けたような微笑みで私の頭を数回撫でる。白く筋の綺麗な手は私のより何回りか大きい。

「部屋にあるものは自由に使いなさい。これからはここが君の家になるのだから、はやく、馴染むようにね」

 勝手だ。私のことをいったい彼は何だと思っているのだろう。犬や猫ではないのだぞと、腹をたててもそれを言葉に出す勇気は私にはなかった。なので、余裕そうな彼の頬を少し強めに抓った。

「ふぁにをふぅるんだ?」

 抓られているのに少しだけ嬉しそうな彼の性癖を疑う。なんでこんな小娘に頬を抓られて嬉しそうに笑っているんだろうこの人。あ、そっか、そう言えば彼は私のことが好きなんだっけ。
 仕返しになっていないしなんだか面白くないのでぱっと手を離す。名残惜しそうに眉を寄せる彼の太腿を一度叩くと、私は先程から気になっていたことを口にした。


「何故この部屋にはベッドがないのですか?」


 彼は輝かしい笑顔で一言。


「君は私と同じベッドに寝ることになるんだから必要ないだろう?」


やっぱり大嫌いだわ、この人。


 
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