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その実が赤く染められたなら

第3章 気づいたら彼女の全てが好きだった




 あの後、とくに面白いこともなく夕食を食べ就寝して(もちろん隣には桑治さん付き)、私の心とは裏腹に朝が憎たらしいほど平穏にやってきた。隣を見ても昨日うざったいほど絡んできた彼の姿はなく、少しだけ安心する。


「お腹すいた」


 タイミングよく香ってきだしたご飯の匂い。うん、誰だって空腹には逆らえないよね。朝からいきなり桑治さんの顔を見たくはないがしょうがない。だって腹がへっては戦はできぬ、なのだ。


「おはよう、美鈴。君は確か朝は和食派だったよね?もうすぐ出来上がるから顔を洗っておいで」

「はい」


 なんで私が朝は和食派だと知っているんだろう?わかってはいたけれど彼はかなり危ない奴なのかもしれない。わかってはいたけれど。重要なことなので二回言わせていただく。

 バシャバシャとテキトーに顔を洗い幾分かスッキリした頭の中で、これから憂鬱な一日が始まるのかと若干気分は落ち込んだが、それは出来上がった料理を見て跡形もなく霧散した。
 友達に言われたお前ほど図太い女はいないという台詞が脳内に浮かんで消えていく。


「これ、全部桑治さんが作ったの?」

「そうだよ」

「…器用ですね」


 顔良し、金良し、性格難ありなこの人の新たな特技は私の中の桑治さんのイメージを大きく上げた。まあ上がってもまだマイナスなのだが。


「気に入ってくれたようで安心したよ」


 無言で皿を空にしていく私のことをコーヒーを飲みながら桑治さんが観察してくる。食べている姿を人に見られるということはあまり心地良いものではないので出来れはやめて欲しい。


「ご馳走様でした。あの、美味しかったです」


ああ、ちくしょう。
心底嬉しそうにしてるんじゃあないわよ。


 
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