第2章 生き残るための知恵
「そうだ今日は何が食べたい?君はどんな食べ物が好きなんだろう。私と同じ食べ物がすきだとうれ…
「ねえ」
…ん、なんだい?」
「どうして私なんですか」
私よりも素敵な女の子はいっぱいいるのに、どうして私だったのか。どうして私だけがこんな理不尽なことに巻き込まれなければならなかったのか。
彼は確かに美しい。そしてきっと色んな才能に恵まれているだろう。
だけど私は普通の女の子なのだ。好きな人だっていたし、残り少ない青春をまだ味わっていたかった。まだ誰かのものになんてなりたくなかった。
「一目見たときから、君以外に考えられなかったんだ。そばにいるのも、キスをするのも、セックスするのも、君がいい」
ああ、なんて下品な口説き文句なのだろう。聞かなければ良かった。
少しの沈黙のあと赤信号にさしかかり、タイミングよく止まった車に神様さえ私を見捨てたのだとほんの少しだけ泣いた。
近づいてくる唇から逃げ出す術を私は生憎持っていないのだ。
「どうして泣くんだ?」
「…慣れてなくて」
「これから慣れなさい。そんなことではこの先もたないよ」
叱るように優しく頭を撫でられて、何故だか私は小学生の頃の担任の先生を思い出した。今思えばいつも穏やかに微笑んでいた彼は私の初恋の相手だったのかもしれない。今では桑治さんと被って嫌な印象になってしまったけれど。
「今日からここが君の家だ」
さあ、着いたよ。と車が止まった先はこの辺の学生なら皆知っている高級マンション。真っ白で美しい建物なのに、私には白い牢獄にしか見えなかった。
「悪い夢だと良かったのに」
私のそんな小さな呟きは風にさらわれてビルの隙間にとけていった。