第3章 気づいたら彼女の全てが好きだった
昨日から今日にかけてわかったこと。この人は心底私のことが好きだ。無理矢理婚約させてきたことからもそれは分かるのだが、私を見つめる瞳を見てそれは大きな確信へと変わった。
なんで、私なの。
とくに理由などないらしい。本能が命じるまま彼は私に恋をしてそして愛を抱いた。きっとこれが他の恋人たちの話しなら素敵だねで終わっていた筈なのに、ああ神様、私はこんなロマンスは望んじゃいなかった。
「今日は学校をお休みして私たちのことを話し合わないか。私と君はお互いに知らないことが多過ぎるだろう?」
制服に着替えようと席を立つ私の腕を彼がつかむ。咄嗟に嫌だと返しそうになる口を閉じて私は小さく頷いた。
「いいよ」
もしかしたら私のことを沢山知って本当の私に気づいたら、彼のこの盲目すぎる恋心も死んでしまうかもしれないと思ったの。
「志野美鈴、とくに変わった一面のない普通の女子高生。勉強が嫌いで運動はもっと嫌い。それと、無理矢理婚約迫ってくるような男も嫌いです」
「手厳しいね。それで、好きなものは?」
「好きな……うん、食べ物が好き。食べることも好き。桑治さんは正直あまり好きではないけど貴方の作る料理は好きです」
「なるほど、餌付けを検討しておこう」
「…貴方のそういうところ、嫌いです」
一日経って心に少し余裕が出来たので余裕しゃくしゃくな彼に反発してみる。だけどやっぱり彼は嬉しそうに笑うだけだった。
「桑治さんの番ですよ」
「一条桑治。好きなものは君以外にとくにないかな。嫌いなものは、そうだね、数え切れないほどあって名を上げられないな」
「情報少な過ぎません?」
「君以外のことにとくに興味はないからね、絞り出そうにも何もないよ。君が聞きたいなら生まれてから今日現在のことを事細かく説明しようか?」
「あ、いいです興味無いので。それにこれから毎日一緒に過ごしていけば嫌でも色んなこと知ることになりそうだし」
桑治さんが顔を手で覆って隠す。
「君のそれは無意識なのか?」
「なんのことです?」
大きなため息を吐きながら、桑治さんは聞こえるか聞こえないかの小さな声で「君が好きだよ」と囁いた。困惑しながらも「知ってますよ」と答えた私を彼はもう一度大きなため息をつき、首を傾げる私の髪をくしゃくしゃとかき混ぜるように撫でた。
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