第7章 君を愛す僕を見ないで
最初から知っていたはずだ。彼女は自分と同じ存在、戦いこそが彼女の本望だと。だけど僕は刀を手に戦場を駆け抜ける彼女の姿を彼女のことを知れば知るほど認めることが出来なくなっていった。
僕は、彼女に恋をしている。
「っ、佳乃ちゃんなにその怪我!?」
「…かすり傷は怪我に入らないんです」
「またそんな屁理屈言って!主を呼んでくるからそこで待ってて」
「燭台切さんは過保護だなぁ」
腕から血を流しながらぽややんと笑う彼女に僕の心は穏やかではなかった。彼女の言う通りそれはかすり傷でしかなかったが、彼女の腕からこぼれ落ちる血を見た瞬間思わず息が止まったのだ。
僕は君を何よりも大切にしたいのに。
それは刀剣として生きることが誇りの彼女にとってありがた迷惑だろうけれど、彼女を大切に思う僕にとって彼女が傷つくことは自分が傷つくよりも辛いことだ。
出来るのならば安全なところにいてほしい。それがダメならばせめて君を僕に守らせてほしい。僕にはそう思うことだけしかできない。きっと言葉にして彼女に伝えてしまったらそれらの言葉は彼女を傷つけてしまうだろうから。
「燭台切は佳乃のことが本当に大好きだね」
佳乃を治し終えた主が眉を下げて笑う。「傷は綺麗に治ったよ」そう言われてようやく一息ついて、彼女のいる手入部屋へ向かう。長い廊下を歩きながら考えることはいろいろあるけど、最近ではその大半が彼女のことだ。
短刀たちの世話を率先してやってくれるのは彼女と岩融さん。顔を合わせることが多いから二人が仲がいいのは当たり前のことなのに、頭では理解していても心ではその事実が苦しい。
佳乃ちゃんの一番になりたい。
佳乃ちゃんの特別になりたい。
佳乃ちゃんの唯一になりたい。
思えば思うほど切なく、今までただの刀であったためかそれらの対処法がわからない。もしも僕と佳乃ちゃんがただの人間であったならもっと簡単な話だったのに、と唇を噛むばかり。
「様子を見に来たのですか、心配症ですね」
「君は僕の大切な人だから」
「私も燭台切さんが大切ですよ」
ああ、違う。
彼女が僕に向けるそれは沢山いる仲間の一人のもので、僕が抱いているドロドロとしているものとは違う。