第6章 心を持つ刀
「何と言うかあの頃のあんたって、本当刀らしいっていうかさ。まあ今もそういうところがあるけどあの頃は本当にそうだったよ」
「それは認めます」
「俺たちは確かに刀につく付喪神で人間なんかじゃないけど、もうちょい人間らしくていいんだと思う」
加州はそう言って隣にいる彼女の手を握り締める。冷たいその白く長い指に己の指を絡ませれば、いつもよりもずっと近くに感じられた。
「ねえ、佳乃はなんで強くなろうと思ったの?」
「…それは私が刀だから、と言いたいところだけど」
「うん」
「きっと、傷つく私を見て涙を流す主を見たくなかったから」
優しい人だと思った。
それと酷く人間らしい人間だとも。
そんな審神者だったからこそこれ以上泣かせてはダメだと思ったのだ。主である人の涙を見る度に身体の奥の奥がツキン、と痛み佳乃を苛ました。きっとそれが感情というもの。刀では持ち得なかった不可思議でかけがえのないもの。
「思えば加州くんはとても人間らしい刀剣男士でしたね」
「え、そう?」
「はい。だからでしょうか、私はあなたに憧れに近いものを持っていました」
それは今も同じです。佳乃のその言葉に加州は嬉しそうに笑う。その笑顔を見てああ、この表情が好きなのだと佳乃も笑った。
遠くで皆の騒ぐ声に混じり、審神者の笑い声が聞こえてくる。それが何時までも続けばいいと願う佳乃の心はいま、見えないけれど確かに存在していた。
心を持つ、それはなんて悲しくて喜ばしいことなのだろう。