第6章 心を持つ刀
「戦場では男も女も関係ありません。そこに立てば斬るか、斬られるか、ただそれだけですので」
そう本人が言った通り戦場では男の刀剣男士に負けぬ戦績をのこす佳乃にこれ以上傷つかないでくれなどと言えるはずもなく、審神者はただただ傷跡の増えていく佳乃の背中を見送ることしか出来ないのだ。
「刀剣たちに傷つかないで欲しい、そう思うことさえいけないこと?」
加州に支えられ傷だらけで帰ってきた佳乃を抱きしめる。土と汗と血の匂い。年頃の女の子が纏う香りではないそれが、涙が出るほど愛しかった。
「最近は戦場にいっても傷が少ないね」
「初期の頃に比べて刀剣男士も揃ってだいぶ戦いも楽になってきましたから」
戦いの後のガヤガヤと騒がしい宴会から抜け出した加州清光は、同じくこっそりと抜けてきた佳乃の隣に腰を掛ける。まだこの本丸がすっからかんだったあの頃よりも頼もしくなった彼女の姿に並々ならぬ努力がうかがえる。
「最初の頃はお互いに傷だらけで、主を泣かせてばかりだったよね」
「ふふ、加州くんはそんな主につられ泣きして、しまいには短刀たちも泣き出してました」
「佳乃だけはどんな状況でも泣かなかったよね。ていうか無表情だった」
「…あの頃は何故主が涙を流すのか分からなかったんです。だからどういう反応をすればいいのかわからなかったの」
刀は戦うためだけに存在する。それ故に傷がついてもそれは名誉の勲章だと思っていた。「痛かったね」そう言って目の前で泣かれても佳乃にはどうしようもなかった。
なぜ泣くのですか?敵は切り伏せましたよ。だれも欠けずに帰ってきましたよ。また強くなりましたよ。
ねえ、それなのにあなたはなぜ泣くのですか?