第14章 変わったような、変わらぬような
「ああ・・・・休まらない・・・」
「・・・・何か言いましたか」
「・・・・。やあ、すまないと言いました」
「面白いですねえ、牡蠣殻さん」
椅子の上に牡蠣殻を投げ出して、鬼鮫は鮫肌に手をかけた。
牡蠣殻は上体を屈めて膝の上に片肘をつき、額を押さえて眉根を寄せた。
「こんな狭いとこでそんな大刀を振り回したら、まず部屋が吹き飛びます。止めて下さい」
「それが何です」
鬼鮫の言葉に牡蠣殻は顔を上げて不思議そうに彼を見た。
「人のうちを壊しちゃ駄目ですよ」
「はあ、成る程」
「・・・いや、駄目ですよ?」
「ふうん。で?」
「わあ、全然聞く耳持ってないよ、この人は。干柿さんは良識派だと思ってましたよ、何しろお説教が多いものですから」
「私は良識派ですよ。こんな事をさせるあなたが非常識なんです」
「力業で来ましたね・・・私ごときにそんな大掛かりな得物は必要ありません。兎に角その物騒な大刀を収めて下さい」
「フン?鮫肌はお気に召しませんか?残念ですね。巧者とやらのチャクラはどんな味か、これも知りたい事でしょうに」
「私のチャクラなんか旨くもなんともありませんよ。量も微々たるものでしょう」
椅子の背に身を預けて、牡蠣殻はだらしなくぐんにゃりした姿勢になった。
「海士仁の事が聞きたいのですか?面白い話はありませんよ」
「あなた、また会うつもりでいるでしょう。あの男と」
鮫肌から手を放して鬼鮫は牡蠣殻の隣に椅子を置いてそこに座った。
「・・・・ホント隣に座りますよね。向かいじゃ駄目なんですか?」
言った牡蠣殻に腕を伸ばして、鬼鮫はその首を大きな手で握った。
「二度と会わせません」
「会いたい訳じゃありません。でも会うでしょうね」
「会わせません」
「彼にしても私に会いたい訳じゃないでしょう。彼は私の血に執心しているだけですから」
牡蠣殻は言葉を切って眉根を寄せた。首を握る鬼鮫の手に自分の手をかける。
「海士仁は殺しかねない程先生と杏可也さんに腹を立てている。そして、波平様に成り代わりたいと望んでいる。どちらも放っておけるものではありません」
「あなたには何も出来ませんよ」
「海士仁は巧者です。そして、私もまた巧者。巧者には巧者しか出来ない事があります」
「浮輪さんも巧者の筈。彼に任せたらいいでしょう」