第14章 変わったような、変わらぬような
「・・・・ほう。私が常に悪目立ちしていると?成る程、あなたはそういう目で私を見ているんですねえ・・・よく覚えておきますよ」
「すぐに忘れて下さって構いませんよ。銭湯の煙突が目立たなかったらとんだ間抜けだなんて思ってませんから」
「・・・・ちょっと待ってなさい。今天井に穴が開くほど蹴り飛ばして差し上げますから・・・・・」
鬼鮫は怯える従業員がおどおどと差し出した宿帳に記帳して、筆を置いた。
牡蠣殻に目をやると、後退って左右に首を振っている。
鬼鮫はフと口角を上げた。
「天井に穴を開けてみたくはない?」
「人並みにお断りです」
「随分肩の力が抜けてきたようですね。結構。来なさい」
割り振られた部屋は二階の階段近くにあり、左隣には先客があるようだった。
覚えのある展開である。
二人は部屋の前に並んで立ち、揃って微妙な顔をした。
「・・・何だか厭な感じがしますねえ・・・・」
「それは私の台詞ですよ・・・また変なお客が訪って来やしないでしょうね。ちょっと今は勘弁ですよ、ホントに」
「それは私の事ですかね?変な訪い客というのは?」
「・・・まさか違うとでも思ってるんですか?」
「・・・相変わらず腹の立つ人ですねえ。全く進歩のない・・・」
「安心して下さい。干柿さんも何一つお変わりありませんから」
「・・・・ここで揉めたいんですか?」
「・・・・せめて座らせて下さい」
「だったらゴチャゴチャ言ってないでさっさと中に入りなさい」
鬼鮫は部屋のドアを開けて牡蠣殻を促した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
答えるなり鬼鮫は片手でドアと鍵を閉め、もう片手で牡蠣殻の胸ぐらを掬い上げた。
「さあ、聞かせて貰いましょうか。荒浜海士仁とやらの話を」
額と額を突き合わせて、牡蠣殻を間近く睨み付ける。牡蠣殻は二三度目を瞬かせて鬼鮫を見返した。
「・・・・虎視眈々っていうんですか?こういうの?ちょっと違いますか?」
「どうだっていいですよ、そんな事は。何ですか、あの電柱みたような男は?あなたにあんな口無精な知己があるとは思ってもみませんでしたよ。二人で座り込んで何の話をしてたんですか。しんみり思い出話ですか?事もあろうに自分を襲った相手と?間抜けも大概にしなさい!この馬鹿女がッ」