第14章 変わったような、変わらぬような
「・・・・あなた、何か大きな思い違いをしたまま私を好いてるんじゃないですか?」
「とんでもない。何処ぞの可愛らしい氷姫並みにありのままの干柿さんが好きですよ。少しも寒くないわですよ」
「・・・そこらの井戸にでもぶっ込んでさしあげますよ、そんなに寒くないなら」
「間に合ってます」
再び立ち止まった鬼鮫に、牡蠣殻が勢いよくぶつかる。
「・・・・何なんですか、このチカチカゴワゴワした大刀は。ぶつかっただけで大層痛い」
「鮫肌ですよ。知らなかったんですか?私を知っていて鮫肌を知らないとは、ちくはぐな人ですねえ・・・」
乏しい灯りを灯した宿らしい建物の暖簾を潜りながら、鬼鮫は呆れた顔で牡蠣殻を見やる。
「ほう」
牡蠣殻は眼鏡のツルを持ち上げて、しげしげと鮫肌に見入った。
「と、すると、実はこれが干柿さんの本体ィタタタタッ!」
鬼鮫が牡蠣殻の耳を容赦なく引っ張り上げた。
帳場の従業員や泊まり客らしい人達の驚いた視線が二人に集中する。
鬼鮫はそれをチラと一瞥していなすと、牡蠣殻に渋い顔を向けた。
「何をどうすればそうなるんですか。あなたの頭の中に詰まってるのはオガ屑か何かですか?そこで甲虫でも飼ってるんですか?いや、それこそその甲虫が実はあなたの本体なんじゃないですか、ええ?」
「干柿さん・・・・不審がられてます。思い切り不審がられてますよ」
「不審?誰が、誰を?」
薄く笑って周りを見回した鬼鮫に、周囲の泊まり客や従業員が軒並み目を伏せる。
「誰も不審がってなんかいませんよ。完全にあなたの邪推ですね」
「・・・貴方は宿を一軒潰すつもりですか。もう二度と来ない事をここで誓っておきなさい。後、私は貴方とは全然関係ない事をくれぐれも強調しておいて下さい。いいですか?大きな声で!ハッキリと!痛い!」
鬼鮫に頭を叩かれて、牡蠣殻はガクンと前にのめった。
「失礼。思わず手が出てしまいました。で?あなた、私と全然関係ないんですか?」
片口を上げて鬼鮫は牡蠣殻をじっと見下ろす。牡蠣殻は後頭部を撫でさすりながら瞠目した。
「失礼しました。思わず口が滑ってしまいました。人目にたちたくなかったのでつい・・・」
「私だって人目にたつのはごめんですよ」
「え!?」
「何です?」
「いえ、常に悪目立ちしてる干柿さんらしくもないなと・・・」