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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第12章 荒浜海士仁


振り返ろうとしたまさにその時、鬼鮫のトーンが変わった。

「あなたは散開を見届けられませんでしたね。・・・あの男、満更ぼんくらではなかったようです。黄泉隠れ、見させて貰いましたよ」

穏やかに鬼鮫が告げると、一拍の間を置いて牡蠣殻は頷いた。

「そうですか。波平様は磯影におなりになられたんですね」

ぼんやりと考え込むように牡蠣殻は己の紅い両手を眺めた。

「汐田さんはどうしました?」

「さあ・・・あの人の事まではわかりかねますね」

「はは、まあ彼女の事だから元気すぎる程元気ではいるでしょう」

尚も手を見据え、牡蠣殻はぼんやりとしている。

「・・・何を考えてるんです?」

見かねて鬼鮫が声をかける。牡蠣殻は手を下ろして、焦点の合わない目を鬼鮫に当てた。

「私にも出来るかどうかを」

「何がです」

「ああ、何って程の事じゃありません」

ぼんやりした目を遠くに向けて、牡蠣殻は考え込み続けている。とらえどころのないその様子に、鬼鮫は思わず手を伸ばした。

「・・・・どうしました?干柿さん?」

強く腕をとられて牡蠣殻は我に帰ったように目を瞬かせた。間近にその目を覗き込んで、鬼鮫は眉をひそめる。

「どうしたんです。様子が変ですよ、牡蠣殻さん」

「変?すいません、変でしたか?ちょっと考え事してましたからね。ぼうっとしてたでしょう。大した事じゃないんです」

鬼鮫の腕をポンと叩いて、牡蠣殻は困ったように笑った。鬼鮫の手に力が入る。

「少し休んだらどうです。いつもに輪を掛けて様子がおかしいですよ?・・・イタチさん」

「一度宿に戻る。荒浜がどこへ失せたか掴まなければこちらも身動きがとれない。奴について心当たる事はないか?」

向き直ったイタチに問われて、牡蠣殻は首を捻った。

「・・・薬師さんの名を口にしていました。連んでいるんじゃないでしょうか」

「音と利害が一致したか」

牡蠣殻をしげしげと見て、イタチは僅かな間瞠目した。

「荒浜に狙われる覚えはあるのだろう?奴は何故あなたを狙う?」

「基本的に彼と私は仲が良い訳ではありませんからね。あげつらえば切りがない。しかし最大の理由が音と被っているのでしょう」

「血の効用・・・」

「あれは私の血を自ら輸血するような馬鹿ですからね」
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