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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第12章 荒浜海士仁


牡蠣殻は辺りを払うように手を振った。

「もしかしたら彼は先生より私の血に詳しいかも知れない」

「破門された弟子とは彼の事ですか」

口を挟んだ鬼鮫に牡蠣殻は頷いた。

「あの馬鹿はとち狂って私を辱しめようとしましてね。こちらには及びもつかない考えがあったのか、何か間違ったのか、いずれにせよ事は未遂で終わりましたが、挙げ句私はあれに殺されかけ、海士仁はそれが原因で破門されました」

牡蠣殻は顔をしかめて腕を組んだ。

「彼は頭が良い。けれど頭の良すぎる者に有りがちな愚を漏れなく犯す。馬鹿ですよ」

「牡蠣殻さん」

「はい?」

「あなた今何を言いました?」

「はあ?荒浜が賢い馬鹿だと言いましたが」

「そうではなく」

鬼鮫はいわく言いがたい表情を浮かべて牡蠣殻を見下ろした。

「あなた・・・」

「私、砂のご隠居のところに戻ります」

牡蠣殻が明るい表情で言った。

鬼鮫が、そしてイタチも呆気に取られて牡蠣殻を見た。

「波平様にお会いしたかったのですが、今のところそれはあまりいい考えじゃなさそうです。それより先生と杏可也さんの側に居ます。海士仁はお二人をも狙っている。私に何が出来る訳でもありませんが、少しでも側にいたい。体を治すにも先生看て頂いた方が良い。砂のご隠居は医療に明るいようですし、それにもしかして・・・・」

隠居二人の顔を思い浮かべて、牡蠣殻はまた考え込んだ。

「もしかして、知りたい事と教わりたい事の答えがあるかも知れない。・・・・少なくとも標を示して貰える気がします」

イタチが口角を上げた。

「考えあっての事ならそうしたらいい。あなたの周りは今混乱している。筋道をつけるつもりなら悪くないやり方だ。もしもあなたが俺と同じ考えならば・・・」

「ええ、砂の民にして貰えるか、打診もしてみます。巧く行ったら木の葉へ行きます。改めて挨拶をしに」

「フ。巧く行くかどうかはあなたの口先三寸にかかっている訳だが」

「私は磯でも口のたつ野師の女です。多少の無理は通して見せます。磯の矜持にかけても」

「個人を尊重するが里の存続が一義、その為に各々が出来ることをする。一度散開を選んだ磯影の為に矜持を貫くか?」

「その彼からして長く疎んじていた磯影の道を選んだのです。里の為に。磯もまた死んでいない。私も私に出来る事をします」
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