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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第12章 荒浜海士仁


海士仁を大きな水の球が捕らえた。球の中で海士仁は細い体をもんどり打つように揺らしてくの字になったが、フッと顔を上げて笑った。

小さな沫が薄い口許から筋になって漏れ、編まれた髪が黒い帯紐のようにたゆたう。

「あ・・・海士仁・・・」

思わず前に出かけた牡蠣殻を、長い腕が遮った。

「邪魔です。出張るんじゃありません・・・おや・・・?」

鬼鮫が眉を上げた。

球の中に変化が起きている。

海士仁を中心に竜巻のような渦が生じた。白い泡を纏って螺旋を描きながら、渦は瞬く間に海士仁を覆って行く。

「・・・成る程・・・」

「鬼鮫、何をやっている・・・」

イタチが動いた瞬間、大きな泡が沸き上がって海士仁が消えた。

「・・・・・・・」

足を止めたイタチは、責めるような問うような目で鬼鮫を見やった。

鬼鮫は肩をすくめて口角を上げた。

「すいません。目が離せなくてね。成る程、ああして失せるのかと思いまして・・・」

「・・・・・水の中でも失せられるんですねえ・・・」

名残の泡沫がクルクルと回っている球を凝視して、牡蠣殻が魂抜けたような呆けた声で呟いた。

鬼鮫は呆れ顔で牡蠣殻を見下ろす。

「何を他人事みたいに言ってるんです?あなただって出来るでしょう?仮にも巧者とかいう身の上なんですから」

「やった事もなければやろうと思った事もないです。第一私は泳げませんから・・・」

「・・・・泳げない?磯と付く里の出で?・・・一体どこまで間抜けに出来てるんですか、あなたは・・・・他人事ながら居たたまれなくなって来ましたよ。情けない・・・」

言いながら鬼鮫は牡蠣殻の血だらけの手をとって、裏にし、表に返し、出血が止まっているのを確認すると、今度は顎に手をかけて上向かせ、その顔をまじまじと見据えた。

「顔色が悪い」

目の下を捲って粘膜の色が真白いのを見て顔をしかめる。

「貧血ですねえ。・・・深水さんと居る筈じゃなかったんですか?こんなところでフラフラと何をしているんです?」

「・・・・あはは」

そんな鬼鮫を見上げて、牡蠣殻は何とも言えない顔で笑った。

「ちょっと色々あって・・・・ハハハ」

鬼鮫は眉を上げて牡蠣殻を見返し、次いでイタチにチラリと目をくれた。
イタチはフッと息を吐くと、二人に背を向ける。





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