第12章 荒浜海士仁
「・・・・・・」
この感じ、覚えがある。
確かこの後吊り上げられて落ちたような気がする。
「知り合いか?」
再び海士仁が問う。もう屈み込んではいない。細く丈長い体をそびやかして、牡蠣殻と、牡蠣殻の後ろを交互に見比べる。
「・・・・何ですか、この月夜の電信柱みたような悲愴感溢れる残念な人は」
頭の上を通り越して行く声に牡蠣殻はぎゅっと目を瞑った。
「牡蠣殻さん、あなたねえ、付き合う相手は選んだ方がいいですよ?見るからにマズいでしょう、この手のタイプは」
肩に大きな手がかかって、後ろにぐいと引かれた。
よろめきながら退いた視界に、黒と紅の色目が過る。
「・・・干柿さん?」
「退いてなさい。邪魔です」
唖然として見る牡蠣殻にすれ違い様の一瞥をくれて、鬼鮫は海士仁に目を据えた。
「荒浜海士仁。ビンゴブッカーでもここ半月で急上昇した名うてのルーキーですね」
海士仁は目を細めて鬼鮫を見やった。ぞろりと纏った竜胆色の衣の裾を裁き、フッと斜めに顎を上げる。
「ふん・・・・。丈高い。目を下げずに済む」
互いに上背のある同士、視線は上下する事なく真っ直ぐに絡み合う。
「面倒がない。楽な。誰だ。暁?」
「ー干柿鬼鮫。以後お見知り置きを」
黒い目を糸のように細めた海士仁に、鬼鮫はクッと口角を上げた。
「・・・磯辺。知り合いか?」
表情を毛筋一つも動かさずに、海士仁は牡蠣殻にまたも尋ねた。両手を懐に潜らせ、そこでスルリと腕を組む。警戒心などまるでなさそうな無防備な格好だ。
「・・・・・」
答えかけた牡蠣殻の肩にまた手がかかる。
「ここは任せろ」
涼やかな目が諫めるように牡蠣殻を抑えた。
「イタチさん」
イタチが切り絵のように端正な横顔を見せて頷く。
「話は角都から聞いた。何故ここにビンゴブッカーといるのかは知らないが、今はいい。退いていろ」
平らかな声で静かに言うと、イタチは鬼鮫の傍らに出た。
「写輪眼。お前は知っている」
海士仁はチラとイタチを見て、すぐ鬼鮫に視線を戻した。
「面白い」
薄く笑って目をすがめる。
「しかし、金目当てか。ビンゴブック?下衆な」
サァッと冷たい空気が動いた。
「水遁・水牢の術!」
外套の裾をその空気に嬲られた鬼鮫が、すかさず印を結ぶ。