第12章 荒浜海士仁
我愛羅は心なし面白がっているような、あまり場にそぐわない顔でカンクロウを見やり、鷹揚に頷いた。
「仕方あるまい。状況が状況だ。行け」
カンクロウもまた状況にそぐわない顔でにやりと笑い、我愛羅に頷き返した。
「木の葉に干渉するってんじゃねえじゃん。人助けじゃん?どのみち門壁がぶっ壊れて警備が手薄になってっからな。見廻り兼ねて行って来るよ」
我愛羅の面白がっているような顔は、カンクロウへの信頼。事を荒立てずに出来ることをやろうというカンクロウを、不安なく押し出す信頼だ。
「そう簡単に見つかるもんかのう」
疑わしげなチヨバアに、テマリもまたニヤッと笑って見せる。
「ここにいるよりは見つけ易い。そうじゃないか、チヨバア様?」
「ハハ、そりゃそうじゃろうな」
「海士仁に会ったらどうなさるおつもりか。ヤツは腕も立つ」
深水の問いにカンクロウは顔をしかめた。
「あんま甘く見んじゃねえじゃん?俺はこれでも砂の警備隊長じゃん?闘い方くらい知ってるっつの」
カンクロウは立ち上がって深水の前にツカツカと歩み寄った。両手をあてた腰を屈めて深水の顔に自分の顔を見合わせ、片口を上げる。
「近場にいんならきっと連れて来てやっから。アンタも少し肩の力抜いて休んでたらいいじゃん?胎教っての?ま、良くねえじゃん?」
「・・・しかし・・・・」
「俺の座右の銘っての教えたろうじゃん。好機逸すべからず。わかる?」
カンクロウは大きく体を仰け反らせて偉そうに鼻を鳴らした。
「出来る事をやらずにすます男じゃねんだ、俺は。黙って待っとけ、じゃん?」
「・・・・何だかな・・・・」
暗い路上裏で牡蠣殻はその薄べったい体をどこぞの家の壁にピッタリとつけ、ひっそりと毒づいた。
「失せられない私は飛べない豚以下・・・・いやいや、何を言っている、こんな時に。チクショウ、ポルコ・ロッソめ・・・」
喧々諤々と話し合っている木の葉の若い忍び達の様子を見ながら、つい独り言が漏れる。
牡蠣殻は、磯に合流するつもりだった。
散開の詳細を、牡蠣殻は知らない。今海士仁はどういう立場にあり、何をしているのか。波平に聞き糺したかった。
が、今までになく弱っている体が失せる事をさせてくれない。つくづく磯は温室であった事を思い知った。