第12章 荒浜海士仁
「・・・・それに関しては正直杏可也にも責めがなくもない。杏可也はあれに気を持たせ過ぎました。・・・自分が失せる術を持たないせいか、杏可也は巧者に弱いところがある・・・・。弟の波平様然り、牡蠣殻然り、そして海士仁・・・」
チヨバアとエビゾウが、驚いた顔を見交わした。
「杏可也は不失の者か。知らなんだな」
「・・・これは波平様とは腹違い、母親は潜師です。母方の血を濃く継いだのでしょう。磯影の子である自分が不失である事を幼い頃から気に病んでおりました」
「・・・不失というのは磯では珍しいのか?」
我愛羅の問いに深水は頷いた。
「時によっては里に一人も居ない事さえある。現に今ある里人の内で不失の者は杏可也のみ」
「・・・・・そうか・・・・」
我愛羅は杏可也の寝顔を痛々しげに見下ろして口を噤んだ。
「そんなに気に病んでいたのなら磯に戻らず砂にいれば良かったのに。磯の外では失せたりしない方が普通だ」
先程目の当たりにした人の失せる様を思い起こしたのか、テマリが顔をしかめて言い放った。
「あんな真似を里中の人間が出来る事の方がおかしい」
「左様。故に磯は他里と親しまないのです」
深水はさらっと流して杏可也を見つめていた目を上げた。
「・・・牡蠣殻はどうしているやら・・・。音の事も木の葉の事も気になります。・・・無事ならいいのですが」
「あの海士仁とかってヤツはどうなんだ?またここに来るんじゃねえのか?呑気に話してねえで場所変えた方がいいんじゃん?」
指輪を鎖ごと親指の先に引っかけて、カンクロウが鹿爪らしく言った。
「ここに来る事も考えられなくはありませんが、あれはまず牡蠣殻を追うでしょうな。牡蠣殻に会ったのは想定外だった様子、足取りを見失うまいとする筈です。その気になった巧者は兎に角捕まえ辛いものですが、今の牡蠣殻が弱っている事も海士仁は知ってしまった」
深水は考え考え、ゆっくり答えた。
「そして恐らく、今の牡蠣殻には失せるだけの余力はない」
「・・・・じゃ海士仁ってヤツより先に見つけてやんなきゃねえんじゃん、牡蠣殻ってのを?違う?」
「しかし何処にいるのか見当がつかない・・・」
「じっとしてたって見付からない。おい、カンクロウ」
テマリに声をかけられる前にカンクロウはもう立ち上がっていた。
「我愛羅」
「ああ」