第10章 天然vs口巧者
「ガイ先生がお喜びになる!わかりました!考えます!」
リーは明快に納得すると、スイッチが切れたように口を噤んで考え始めた。
ネジはやれやれと頭を振り、その肩をテンテンがグッジョブとばかりにポンと叩く。
気を取り直したネジが牡蠣殻に顔を向けた。
「今一度聞く。磯の牡蠣殻磯辺で間違いないな?」
「ご丁寧にフルネームでどうも。相違ありませんよ。また会うような事がありましたら、次からは牡蠣殻とのみお呼び下さい。上から下まで呼ばわって下さらなくて結構。存外イラッとするものですよ。殊に面識のない相手に呼びつけられるのはね」
溜め息混じりにぞんざいに答え、牡蠣殻はまだ濡れ光る血を懐から取り出した紺鉄の手拭いで拭き取り、出血が止まっているのを確認すると軽く頷いた。
「私はこれから砂の隠居部屋に行かなければなりません。忘れ物を取りに行かなければならなくなっちゃいましたからね。どうしても用があると言うならそこに来て下さい。招かれてもいない貴方達には少々物騒な場所かも知れませんがね。そもそも貴方達が来た頃には私がそこにいるかどうかも怪しいものだ」
「いや。一緒に木の葉に来て貰う。五代目直々の命だ。是非もない」
ネジの言葉に牡蠣殻は苦笑した。
ネジとテンテンに気の毒そうな顔を向けて腕を組む。
「そりゃ貴方達に是非はないでしょう。しかし私は木の葉の民ではない。いや、それどころかどこの何でもない。今の私に何か命じることが出来る人はいないのですよ。・・・・あー・・・と、思い込みの強いサディストは別にしてね。ええ」
「お、思い込みの強いサ、サディスト?・・・難しい」
ネジは苦渋に満ちた目でテンテンを見た。
「ちょ・・・何よ?知らないわよ、何、アタシにサディストになれってか?ないないない。そんな急に方向転換出来ないから。藤原豆腐店だってそんなスピンターン無理だし。アタシ峠は攻めないし。アンタが頑張んなさいよ。白目剥いて張り切っちゃいなよ」
「・・・何だと?」
「何よ」
「ネジ!何を考えればいいんですっけ?フランシスコ・ザビエルまでは覚えていたのですが、そこで急に天草四郎が出て来て全部わからなくなってしまいました。あとちょっとだったのに!」
「・・・・リー、悪いがちょっとかける言葉もない。どこに行ってたんだ?」
「え?ええ!?ずっとここにいましたよ!?」