第10章 天然vs口巧者
「俺が言っているのは頭の中身の事だ」
「頭の中身?頭の中身だって勿論僕と一緒にここにいましたよ?中身だけ何処か行ったりするんですか、ネジの頭は」
「俺の頭の中身が何処かへ行くのを見た事あるのか、お前は」
「ないと思いますよ。でもボクの頭の中身だって勝手に出歩いたりしませんからね」
「君が素っ頓狂なことを言い出したので、本筋から外れて何を考えていたのかと言っているのでしょう、彼は」
牡蠣殻が堪りかねたように口を挟んだ。
リーはきょとんと牡蠣殻を見る。
「素っ頓狂でしたか?一生懸命考えてたんですが」
「一生懸命でも素っ頓狂は素っ頓狂ですからね。むしろ一生懸命な分困惑しますよ、周りは」
「そうですか。ボクはネジを困らせてしまったんですね?そんなつもりじゃなかったんですが」
「フランシスコ・ザビエルと天草四郎が飛び出るような話は誰もしていませんでしたからね。度肝を抜かれますよ」
「・・・何でフランシスコ・ザビエルで天草四郎なのか、実は僕にもわかりません」
「途中で明らかに独り歩きを始めたんでしょうね、考え事が」
「不思議です」
「不思議ですねえ。これは貴方が真面目だからこその弊害かもしれませんよ。些末な事まで真剣に追いすぎて思考がついていかなくなったんじゃないですか?何事にも力が入り過ぎのように見受けますよ、貴方。少し力の抜きドコロを心得てみてはどうです?」
「でもボクは常に全力を尽くしていたいのです」
「そうですか。まあそれも悪くないでしょう。人それぞれですから。確かに貴方は常に全力を尽くしていそうですね。いいんじゃないですか?貴方は疑いようもなく愛されるべき良い人間なようですし、真面目で一生懸命な姿勢は良果をもたらすでしょうしね。多少の弊害はこの際目を瞑って貰えばいいんです。ねえ?」
「・・・目を瞑るのはこの場合俺達という事か?釈然としないな・・・」
「今までだって目を瞑りっ放しだったような気がするんだけど・・・」
「忍耐や自制もまた良果を得る最上の道の一つです。切磋琢磨と言っていいかどうかは微妙なところですが、良いお付き合いをなされているのですねえ・・・素晴らしい」
「素晴らしいなんてそんな・・・もしそうだとすればそれはガイ先生のお陰です!」
「忍耐や自制という点では確かにリーに及ばぬ薫陶を賜っていると言えるな。確かに」