第10章 天然vs口巧者
「家に帰るんですか?でも先刻ここはどこって・・・あ、迷子ですか?」
ネジとテンテンが目を見交わしているのにも気付かず、リーは女に心配そうに尋ねた。
「・・・迷子・・・ではありませんねえ・・・。厳密には」
女は自分でも計りかねるような曖昧な様子で独りごちた。
「・・・なんて言うんですかね、こういう場合・・・」
「送りましょうか?ボクも砂は不案内ですが、暗くなってからの迷子は子供でなくても心細いものです。怪我の事も心配ですし、一緒に行きます」
リーの丸い目に誠実の二文字がクリスマスのイルミネーションの様に輝いている。
女は怯んだように目をしばたかせ、更に一歩退いた。両手からパタパタと血が滴る。
「いや、大丈夫です。お気遣いなく」
「何処も大丈夫じゃないです。出血ひどいですよ?余程深い傷なんじゃないですか?」
「あの・・・」
テンテンがリーの隣に立って女に話しかけた。
「取り合えず怪我の手当てをしませんか?そのままじゃ私達も心配だし・・・」
リーとテンテンの背後で、ネジが小さくガッツポーズをとる。
「自分で手当てするにしても、アタシたちにも手伝える事があるだろうし」
テンテンとリーを見比べて、女は困ったような面倒そうな表情を浮かべた。
「・・・何であんな現れ方をしたのか、聞かれたくないと言うなら聞きませんから」
女の様子を見ながら、テンテンはにこっと笑った。
「ああ、成る程」
ピッピッと手の血を払いながら女は頷いた。
「私に何か用ですか?木の葉の忍がこの刻限に砂にいるんじゃ悪目立ちしますよ。それに残念ながら今の私は暇じゃないんです。用件があるなら簡潔にすませて下さい」
額をトントンと指で叩きながら言う女に、三人は一様に額あてに手を伸ばした。
「失礼ですが、牡蠣殻さんですよね?」
テンテンが額あてを外しながら笑顔で聞く。
女はそれにまた頷いた。
「そうですね、確かに私は牡蠣殻です。で?もう一度しか聞きませんよ?何の用です?」
「ええ!?牡蠣殻さん!?凄いですね!凄い偶然です!ホントですか?ホントに牡蠣殻さんなんですか!?アレ?何でこんなところで迷子になってるんですか?」
リーが素っ頓狂な声を割り込ませた。
「・・・このコはいつもこんな感じなんですかね?」
「ええ、常にこんな感じです」