第10章 天然vs口巧者
「捨てる!?これはガイ先生からボクに託された言わば思いやりと青春の純結晶!それを捨てるなんて事はボクには出来ませぐわはッ」
ガイの薬を握り締めたまま、リーが九の字になって吹っ飛んだ。
ネジとテンテンは呆気にとられてまた白目を向いて水平に飛んでいくリーを見送った。
リーは、何もなかった空間から弾丸の様な勢いで飛び現れた人影を、腹に抱え込むような格好で砂の路地裏の廃屋に突っ込んで行った。
強烈なカレー臭と共に砂埃と木っ端がボウボウと立ち上り、朽ちかけた家屋の壁に穴が開く。
「・・・・今のは・・・・・何だ?」
薬の匂いに涙を流していたネジが、つまんでいた鼻から手を離して眉をひそめた。
「・・・・・・何?アレ?」
テンテンもリーの突っ込んで行った穴を見やり、呆然と呟いた。
「・・・・ぅわ・・!!!・・な・・・!?何だ、コレ・・い、いたたたたたたた!!!!き、傷にしみる!!!痛い!臭い!・・・ゲハッ、グホ・・・・ッ、イダダダダィ・・・!!!か、辛い!?グハ・・・・ッ、辛イダイ!!!ゲホ・・・ッ、何、コレ・・ど・・・毒・・・・!?うぇッ」
「な・・・何ですか、あなだ・・・ゲッホゲホッ・・・
あなたは・・・!!!タタタタタ!!!!目がッ、目がァ!!! エホ・・・・・ゲホ・・・ッ、か、辛い!ガイ先生ッ、辛いです!!!イタタタタタ・・・ッ、鼻がもげ、もげる!!!!」
廃屋に開いた穴から二つの人影がわめき声と共に飛び出して来た。
リーと地味な装いの眼鏡の女が、肘で鼻を覆いながら、黄土色の砂埃もしくはカレー埃を見返って涙目を瞬かせる。
「何なんだ、一体!?ぅおえ・・・、カ、カレー屋か!?カレー屋なのか!?ゲホッ、人死に出す前に潰れろ!!!立派な傷害事件だぞ、コレ!!!」
「しょ、傷害事件!?ガイ先生お手製の薬が傷害事件!?ゲホゲホッ、失礼な事を言わないで下さ・・・・イギャッ!イダダダ・・・・ッ、目ッ、目に、は、入ったァッ!!!!イギギギッ!!!ガ、ガイ先生イィ、こ・・・、コレも修行ですか!?厳しすぎます・・・ッ!アガガガッ、目ェいたッ、目ェいったァ・・・ッ!!!!」
「・・・・ガイ先生の思いやりと青春は一体どうなってるんだ・・・破壊力ありすぎだろ・・・・」
自分も赤い目をしながらネジが恐ろしげに呟いた。隣のテンテンも真顔で深々と頷く。