第1章 砂の三兄弟
「散開の話もせずに汐田の話か。余程の事があったのだろうな・・・奈良は無事なのか?」
「・・・どういうヤツなんだ、その汐田藻裾っていう女は」
「知らなくていいんじゃん?関係ねえにこした事ねえよ。好奇心は猫も殺すって言うしな。テマリと化けは会わねえ方がいい。大体凄え相性悪そうじゃん」
「・・・・そうかもな」
「何だ、我愛羅まで。気になるな」
「・・・そう、気にするなと言われても気になるものは気になるのだ。俺の気持ちがわかっただろう、テマリ」
「むッ」
「叔母さんとあの口の達者なオッサンなら何か知ってんじゃん?我愛羅も会えねえの?」
「・・・チヨ婆様とエビゾウ爺様の許可がなくては会えない」
深水という磯の医師は、杏可也の今の連れ合いだ。二人は二週間前の夜明け方、チヨ婆とエビゾウ爺の客分として砂を訪れた。
チヨ婆の言い付けで我愛羅とカンクロウは二人を迎えに行っている。
杏可也は空から、深水は文字通りいきなり何もないところから。
二人とも、暁を伴って現れた。
訳ありなのは誰の目にもはっきりしていたが、隠居の身とはいえ砂の重鎮である二人が自分たちの客人だと言うのだ。口が挟み辛い。
以来チヨ婆とエビゾウ爺は、二人を囲い込んで誰にも会わせない。
風影である我愛羅でさえこの件に手を出しあぐねている。地下に潜って隠遁し、誰が宥めてもすかしても動かなかった二人の事、我を張っても意思が強い。
「あれだけ大揉めしたのにチヨ婆様が叔母上を迎え入れたのだから、相応の訳があるのさ。物騒な連中と現れたのもただ事じゃない」
テマリも気になっているらしく眉根を寄せて息を吐いた。
「その汐田とかいうヤツに事情を聞けないのか?」
「アイツは今木の葉で忙しくしている。散開にあたって結構な数の磯の民が木の葉に移ったらしいが、その相談役の相談にのっているようだ。伝書が来た」
「磯の者が木の葉に?何でだ?磯っていや何処とも連まねえ地味な里じゃん?それに何で木の葉が絡む?」
「地味だが役に立つ。磯は本草の知識と扱いに長けている。良いも悪いも薬の使い方を心得ている便利な連中だ。連んで損のある相手じゃない」
テマリが考え考え言った。
「散開がわかっていれば、砂だって介入して磯の民を囲えたのにな?木の葉は巧くやったな」