第8章 道具としての、牡蠣殻という者
エビゾウの後を引き取ってチヨバアが続ける。
「じゃが、こればっかりは渡せんかった。そうじゃな、深水?何せ薬には牡蠣殻自身の血を使わねばならんのじゃからな」
「・・・血が薬なのか?」
カンクロウの問いに深水は僅かな間思案して、慎重に答えた。
「正確には薬の一成分でしょうな。しかしながら欠くべからざる主成分・・・」
「この牡蠣殻は毒と薬の器じゃ。囲われる相手を選ばねばエライ事になる。牡蠣殻に毒された者は一度出血しようものなら、牡蠣殻なしには死ぬしかないんじゃからな。悪用されたら叶わん」
エビゾウが飄々と言った。
「・・・器か。気に入らない言い回しだな。場違いな事を言うようだが、バカにしているぞ、エビゾウ爺様」
他人事ながらカチンと来たらしいテマリが突っかかるのを、エビゾウは薄く笑って躱した。
「逃げ回るだけで己が身も守れぬようではな。道具呼ばわりも致し方あるまいよ」
「・・・ああ、そうかよ・・・そういう意味・・」
輸血のとき、エビゾウが枕辺で言っていた事がフに落ちた。カンクロウは牡蠣殻を見、口角を下げた。
「深水は薬師の小僧に脅されて腰が引けた。杏可也が腹ボテじゃ無理もなかろ。子供の顔も見たいわいのう。で、どういう伝手か聞く気にもならんが、よりによって暁なんぞに護衛を頼んで砂まで落ち延びた訳じゃな。当てにされたワシらは音からこやつらを隠して守っとったんじゃよ」
チヨバアが話を結ぶ。
腕組みして目を閉じ、頭を心持ち俯けて話を聞いていた我愛羅が顔をあげた。
「何故木の葉に返さない?ー火影から打診があった筈だ。厄介事を引き受けると」
「・・・・何じゃ、聞きつけとったんか」
憮然としたチヨバアに我愛羅はきつい目を当てた。
「火影の思惑とは別に根が動いている。下手をすれば木の葉との同盟にヒビの入る事態に為りかねない。音絡みである事を鑑みても深水と牡蠣殻を木の葉に引き渡すべきだ」
「根の巣におめおめと返せと言うのか?冷たいの、我愛羅。杏可也が悲しもうて」
「身重の叔母上は砂で引き受けよう。しかしそれ以上の干渉は木の葉にしかねる」
「こやつらは木の葉の者ではない」
「事は木の葉にも起因している。砂は口を出すべきではない」
「口など出しとらんがな。親切をしとるだけじゃ」
「詭弁だ」