第8章 道具としての、牡蠣殻という者
チヨバアに目で促された我愛羅達が卓につく。
三人が腰かけるのを待って、深水はお茶をひと啜りして話を続けた。
「牡蠣殻はその際磯を抜けた。その身上故里に迷惑をかけまいと思ったのでしょうな」
深水の背後で牡蠣殻が痛いような顔をした。
「短慮な振舞いです。私が居れば止めていた」
端然と言い切ると、深水は怖いような無表情で誰を見るでもなく、スッと背筋を伸ばして正面を見据えた。
「しかし私はそこに居なかった。己の責めによって散開前に里を抜けたからです」
「・・・・・己の責め・・・」
我愛羅が呟いた。深水はチラと彼を見、頷く。
「牡蠣殻は余人とは異なる厄介な体質の持ち主です。一度出血すると専用の薬を用いない限り流血し続けてしまう。無論放って置けば死に至る。外傷のみならず、骨折、打ち身、果ては充血さえも牡蠣殻には予断ならない事態になり得る。更に悪いことには、この質は血を介して人に伝染るのです」
カンクロウは目を見開いて牡蠣殻を見た。
国境を見回った警備の任務。
あのとき、藻裾とシカマル達はこの牡蠣殻を探していたのだ。
死に至る筈もない傷に因って失血死していた数々の遺骸が脳裏に甦った。
牡蠣殻は表情を消して深水の背中に目線を定めている。
「・・・それは・・・」
テマリが押し出すような小さな声を洩らす。
我愛羅は鋭い一瞥を牡蠣殻にくれ、次いでチヨバアとエビゾウをじっと見詰めた。
「勘違いなされるな。国境に於ける不審事、あれは間違っても牡蠣殻の仕業ではない。全て私に責めのある事」
苦々しく深水は言い淀んだ。
「こやつは音に牡蠣殻の血を売ったんじゃ」
深水にとって最も言い辛い言葉をチヨバアが事も無げに吐いた。
「は?音?大蛇丸にか!何やってンだ、このおっさんは!!」
カンクロウは思わず声を荒げた。
「あの大量の不審死体は音の仕業と言う事か?しかし何の為に山賊のような連中をそんな・・・」
訝るテマリにエビゾウが簡単に答える。
「実験じゃな。どんだけ使えるモンか、どんな風に使えるモンか、試したんじゃろ。新薬の効果の裏付けは何より実験結果の数がモノを言うからの」
「で、まあ毒が手に入りゃ解毒剤が欲しくなるのは当たり前じゃな。音は深水に牡蠣殻の用いとる薬を要求した訳じゃ」