第8章 道具としての、牡蠣殻という者
「詭弁?我愛羅よ、こやつらを木の葉に返して、国境での惨事が里同士の争いで起きないと言いきれるのか?」
「言いきろう。それだけの者が今の木の葉には在る」
我愛羅とチヨバアはしばし互いを見合った。
「・・・チヨバア様。あなたはこの人達をどう利用しようと言うのだ?それこそ音のように人殺しの手にするつもりか」
「・・・・・・・・」
「砂にそんなものは要らない。俺が風影である限り、人を道具のように使う事は決して許さない」
「血清じゃよ」
不意にエビゾウが口を挟んだ。卓の下を探って饅頭の盛られた漆盆を取りだし、二つ取って一つは手元に、もう一つは牡蠣殻に放ってやる。
牡蠣殻が我に帰ったような様子で危なっかしく受け取るのを見届け、深水に盆を回す。
深水は一礼して饅頭を一つ取ると、隣のテマリに盆を進めた。
テマリは妙な顔で戸惑いがちに一つ取り、カンクロウを肘で突付いた。
突付かれたカンクロウは、これも変な顔をして饅頭を取ると、我愛羅とチヨバアの間に盆を置いた。
二人は互いに見合ったまま、何故か素直に饅頭を手に取る。
テマリがプッと噴いて、釣られて噴きかけたカンクロウは咳払いして口を拭った。
「血清って何だよ、エビゾウ爺様」
「血清も知らんのか?ジャンジャン言っとらんで少しは勉強した方がいいぞ、カンクロウ」
呆れ顔で饅頭をかじるエビゾウにカンクロウは顔をしかめる。
「血清くらい知ってるって。今の話にどう関わるかっつってんの、俺は」
「その人の血に血清作用がある?そういう話か?」
テマリがエビゾウの様子を見ながら問うた。
「・・・・出たよ、ショミミの血継限界」
「バカ、お前の察しが悪いんだよ。ショミミとか言うな、そういう言い回しは嫌いだ」
テマリはカンクロウを睨むとエビゾウに目を戻した。
お茶を呑みつつ、エビゾウが頷く。
「毒を食って散らす血じゃ。またとない解毒薬じゃな。人殺しの手は要らんでも、コイツは欲しくはないか、我愛羅よ?」
「・・・・」
我愛羅は目をすがめて師弟を見た。
寝台に腰かけた牡蠣殻は口を引き結び瞠目しており、一方の深水は背筋を伸ばして端然としている。
「・・いや。この件に関して木の葉へ不干渉である事に変わりはない」
「・・我愛羅・・・」
チヨバアが言いかけたとき、辺りの空気が揺らいだ。