第8章 道具としての、牡蠣殻という者
「気に入った。癖になるの」
「癖にしなくていいから。ちょっと止めて。それ俺の専売特許だから。マジ止め」
「・・・ジャンジャンしか取り柄がない、みたいな・・・?」
「おいそこの風影。真顔でムカつく半疑問繰り出してんじゃねえじゃん。後な、ジャンジャン言うな!化け思い出すわッ!湧いたらどうすんだ。ジャーキーなオメエはいいだろうけどよ、俺は漏れ無くひでぇメに会うんだからな!?召喚なんかしてみろじゃん?俺は逃げますよ!?風になりますよ!?」
「なれるモンならなってみろ。お前じゃ風になるどころか風邪をひくのが関の山だ。我愛羅に絡むな。話が進まない・・・・てかアンタ達は何で自分らだけちゃっかり座ってお茶してるんだ!?一声かけてくれなきゃやり辛いじゃないか!?・・・・・交ざっていいですか?」
「邪魔しちゃ悪いかと思っての、な、姉者」
「ん?面白いな。ぎゃはは。まあ座れ」
テマリに突っ込まれたチヨバアとエビゾウが、三人を卓に手招いた。
深水も椅子にかけてお茶を呑みつつ、三兄弟を興味深そうに眺めている。
「杏可也の話を別にしても、世間知らずの私さえ聞き及んだ事があります。砂漠の我愛羅なる大層な遣い手の噂を」
我愛羅は眉を上げて深水を一瞥した。
「・・・叔母上は何処におられる?姿が見えない」
「気分が優れぬ様子なので休ませております」
「大事ないのか?」
我愛羅の眉間に懸念の皺が寄る。
それを認めた深水は、しげしげと我愛羅を眺めて笑った。
笑うと鹿爪らしい深水はいっきに人懐こい顔になる。
我愛羅のみならず、カンクロウとテマリも虚を突かれて深水を見た。
深水は人懐こい表情のまま三人を見回して目尻に深く笑い皺を刻み、どことなく肩の荷が下りたような様子でいる。
「杏可也は砂で良い縁に恵まれていたようだ。重畳至極、有り難い事です」
寝台の傍らに立ち黙って皆の話を聞いていた牡蠣殻を振り返って、深水は手振りで寝台に戻るように示した。
「私は磯で医師を務めておりました。子弟のつく身でもありました。この牡蠣殻は私の弟子の一人、出来が悪く厄介な身の上故、やむを得なくもっとも目をかけた弟子です」
寝台の縁に腰かけた牡蠣殻が苦笑いする。
深水は問わず語りに砂の面々を見回した。
「お聞き及びかとは思いますが、磯は散開の形をとって出直しました」