第8章 道具としての、牡蠣殻という者
「・・・すいません。口が・・・いや人生が滑ったような激震に見舞われた心地で、取り乱しました。・・・・何とおっしゃられました?」
「錯乱しているのかと言ったが。大丈夫なのか、お前?」
深水は眉根に深いシワを寄せて教え子を見やった。
「いや、その前・・・」
「風影を交えての話があると・・・」
「その前」
「エビちゃん様?」
「ああ、また言っちゃったよ本気だよ・・・ええ!?ホントに?だ、誰?ホントに先生!?またちょっと会わぬ間に随分カラーがお変わりになりましたね!?」
動揺する牡蠣殻に、エビゾウがカラカラ楽しそうに笑った。
「深水よ、良い師弟関係を築けたようで何より」
「いやはや出来の悪い教え子で汗顔の至り・・・」
「何の。出来が良ければ良いというものでもない。それは子弟のあるお前もわかっておろう?」
エビゾウの言葉に牡蠣殻が妙な顔をして湯呑みを置いた。
「・・・・」
深水はそんな牡蠣殻を見やりながら、苦い顔をして黙り込む。一方エビゾウは二人の様子などどこ吹く風で周りを見回した。
「杏可也はどうした?」
「少々腹が張ると言うので休ませております。産まれ月まであと二月、無理はさせたくありませんので」
「そうか。もうそんなになるのか。腹が目立たんで失念しておったわ。そうだの。大事にせんとな」
エビゾウは自分の頭を撫でるように擦りながら頷いた。
「杏可也には是非阿修理の子を産んで欲しかったがの・・・こればかりは授かり物じゃから言うても詮ないが、阿修理の寿命がこうも早く尽きるのなら忘れ形見を遺して欲しかったと思わずにおれんのう」
「・・・・・・・」
「深水には面白くもない話じゃろうな。まあ年寄りの世迷い言じゃ。気にせんでくれんかの」
「デリカシーがないよ。エビゾウ爺様、気にするなは反って酷だ。ちゃんと謝った方がいいな」
若い娘の声に、一瞬部屋の雰囲気が華やいだように思われた。
「おお、テマリ、久しいの」
チヨバアに連れられた我愛羅、テマリ、カンクロウが部屋の取っ付きに立っていた。
「我愛羅も大きくなったのー。前に会ったときはこんなちンまい童じゃったのがな。フンフン」
「いつの話をしとるんじゃ、お前は。横井昭一か」
「んー?わしゃ姉者に輪をかけたヒキコモリストじゃからの。時間も止まるわ」