第8章 道具としての、牡蠣殻という者
膝を叩いて盛大に笑うと、チヨバアはやおら立ち上がった。
「さて、カンクロウ達を呼び寄せるかな。約束を守らにゃならん」
「チヨ様・・・」
呼び止める牡蠣殻にチヨバアは手を振った。
「大人しく待っとれ。待てば甘露の日和ありでの。わかるか?」
「果報は寝て待てじゃな」
「急いては事を仕損じる?」
「焦る乞食は貰いが少ない、とも言うのう」
「まあ兎に角待っとれと言うんじゃ。お前と同じ事を知りたがっとる連中を連れて来る。まとめて聞かせれば話が一度ですむからの。時短っちゅうのか?これ?ぎゃははは」
「・・・時短って・・・・」
もの思わしげにチヨバアを見送る牡蠣殻の傍らで、エビゾウがフンフンと小刻みに頷いた。
「マルセイユ・ルーレットかの?興奮するのう!ジズーは最高じゃでな!」
「・・・・それはジネディーヌ・ジダンですね。・・・時短とジダンは何の関係もありませんよ」
「ん?牡蠣殻はサッカーは嫌いか?」
「・・・・・好きも嫌いも・・・」
「ベッカムさんなんかどうじゃいな?イケてるメンじゃんじゃん?」
「・・・・・・・・・」
「クリスティアーノ・ロナウドか?フェルナンド・トーレスか?カカ?セルヒオ?」
「・・・・・あの・・・・言っている事がよく・・・・・」
「何じゃ?好きなサッカー選手もおらんのかの?」
「・・・・カーンですかね」
「ラフカディオ・ハーン?」
「誰が耳なし芳一の話をしました・・・オリバー・カーンですよ」
「えー?ゴリラじゃーん」
「・・・・お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?話し辛い・・・」
「おお、自己紹介がまだじゃったか。エビゾウじゃ。エビちゃんと呼んでくれても構わん」
「・・・申し訳ありませんがご希望には添いかねます。エビゾウ様と呼ばせて頂きます」
「エビちゃん様でも良いがの?」
「・・・添いかねます」
「そうかの・・・駄目かの・・・お?深水。姉者に呼ばれたか」
エビゾウがヒョイと牡蠣殻の背後を覗き込んで手招きした。
「エビちゃん様。何でも風影を交えての話があるとかで・・・?気付いたか、牡蠣殻」
牡蠣殻はソロリと師を振り返った。
「・・・アレ?今何つった?」
「・・・お前こそ何を言っている。何だその言葉遣いは?錯乱しているのか?」